FIELD PLUS No.16
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8FIELDPLUS 2016 07 no.16最近は日本国内でムスリム向けの対応が注目されるようになり、急速にハラールという言葉が広がった。企業もいわゆる「ハラール・ビジネス」を手がけるようになったが、その対応には誤解や混乱が見られる。マスメディアの論調分析を試みる。 本稿では、中東調査会刊『中東研究』第523号(2015年5月刊)に掲載された「『ハラール・ビジネス』のブーム化と課題──マスメディアの論調から読み解く」をベースとし、その後のアップデートも含め、日本のハラール・ブームに対する問題提起をしたい。日経からみるハラール・ブーム:萌芽は2010年から 日本の一般的なビジネスパーソンにとって、日本経済新聞の朝刊は情報収集の基本であり、その影響力は大きい。ビジネス界の関心の推移を表す鏡だとも言えるだろう。日本経済新聞の1980年以降の紙面を対象として調査したところ、ハラール関連の記事の数は図表の通りとなった(9頁下)。 1980〜90年代は、ムスリムの習慣を紹介するコラム等でハラールが取り上げられた程度であり、異文化の紹介という色彩だった。取り上げられた記事の数も少なく日本のビジネス現場におけるハラール・ブーム 最近、日本のビジネス界ではハラール産業に進出する動きが活発化している。筆者は今年3月からシンガポールに駐在しているが、当地でも日本の地方自治体や企業がハラール関連の展示会に参加するなど、日本からの高い関心が伝わってくる。 しかし、「ハラール認証はイスラーム市場へのパスポート」といった無責任な謳い文句がしばしば見られることには違和感を抱いている。実態は各地のローカライズされた認証方式があるため、どこかで認証を取得したからといって、全てのイスラーム圏で通用するかは別の話であるからだ。 筆者は外務省での仕事で外交実務を経験した後、証券会社リサーチ部門を経て、現在は経済メディアでビジネスパーソンへの情報提供を行っている。外交とビジネスの実務において、ハラールに関する調査や情報提供を行ってきた。 ハラールに関する先行研究は蓄積されてきたが、本稿ではビジネスの現場での経験を踏まえた論考を届けたい。厳密にはフィールドワークとは言えないかもしれないが、筆者がビジネスという空間で経験した日本人ビジネスパーソンのハラールに対する認識と、その形成に影響を与えている20年間で僅か5件に止まった。 2001年は11件と増えたが、全て「味の素ハラール事件」に関する記事であり、イスラーム圏におけるビジネスのリスクという捉えられ方をした時期だ。その後2002年から09年までの8年間はハラールに関する記事は大幅に減り、マレーシアやブルネイ政府のハラール産業の振興策を紹介する内容を中心とした記事が7件掲載されたのみだった。 今日のハラール・ブームに向けた論調の変化は2010年から現れる。日本企業が外国でハラール認証を取得する動きを中心に、計5本の記事が掲載された。2011年は同じく5件だったが、イスラーム圏は人口増加率が高く、「ハラール・ビジネス」の商機が大きいという論調がみられるようになる。2013年から急増するハラール報道 ハラール関連記事の数が急増したのは2013年からである。ちょうどこの時期は、いわゆるハラール・コンサルタントの活動が活発化した時期と合致している。具体的にはマレーシア ハラル コーポレーション株式会社(MHC、2010年創業)やNPO法人日本ハラール協会(JHA、2010年設立)をはじめ、様々な新興団体が設立された時期である。 2013年には計16本のハラール関連記事ハラール・ブーム、日本企業はどこへ行く?川端隆史かわばた たかし / Uzabase Asia Pacic Pte. Ltd.、AA研共同研究員バンコクコタキナバルマレーシアブルネイタイシンガポールシンガポール・イスラーム評議会のハラール認証マーク。マレーシア・サバ州の州都コタキナバルにあるローカルのファーストフードチェーン店。マレーシア当局発行のハラールロゴマークを入り口に大きく掲げている。

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