24FIELDPLUS 2016 01 no.15フロンティアフィールドワークから見た視覚の適応進化──タンガニイカ湖のシクリッド調査 寺井洋平 てらい ようへい / 総合研究大学院大学 濃藍深緑の透明な水を雄渾にたたえるタンガニイカ湖。この湖固有の約250種のシクリッドは適応進化の機構を解明するために最も適した生物である。湖上での測定の様子。とても美しいタンガイニカ湖。漁村の子供はデジカメが大好き。刺し網を沈めている様子。適応進化の研究とフィールドワーク 生物はどのようにしてその多様性を進化の過程で獲得してきたか? これは進化生物学における中心的な問題である。生物が多様性を獲得してきた機構の1つに適応進化がある。それを簡単に説明すると、ある生物の種が生息する環境で多くの食物を摂取し、より多くの子孫を残せるように進化してきた過程である。私はこのような適応進化を分子レベルで明らかにする研究を行ってきた。「分子レベル」という言葉を使うと、いかにも実験室にこもって研究を行っているように聞こえるが、実験室にいるだけでは適応進化を研究できない。なぜならば、適応進化の研究では対象とする生物の生息環境を知り、その生物がどのようにして環境に適応しているかを明らかにするからである。具体的に説明すると、私は眼の中にある光を受容する分子がどのような光を受容できるかを実験室で、そしてその生物が生息する環境の光を野外で調べている。また研究対象の生物のゲノムDNAとRNAを採取する必要もあるため、野外での調査が必須となっている。そして私が適応進化研究の対象生物の1つとしているのがシクリッド(カワスズメ科魚類の総称)である。タンガニイカ湖ムプルング
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