FIELD PLUS No.15
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22FIELDPLUS 2016 01 no.15フロンティアサルの味覚を追ってフィールドに 今井啓雄 いまい ひろお / 京都大学霊長類研究所 味覚は食べ物を選ぶ際の最も重要な手がかりであるが、そのメカニズムがつい最近わかってきた。ヒトを含む霊長類の味覚を研究しているうちに、いつの間にかフィールドに飛び出していた。白頭葉猴のねぐら(矢印)の下にバケツを置いてフンを回収。ジャワルトン。白頭葉猴のねぐらの前にある観察台。白頭葉猴。味覚受容体遺伝子と食文化 味覚は舌に発現する味覚受容体によって担われている。ヒトには味覚受容体の遺伝子配列に個人差があり、その違いが個人や地域間での食べ物の違いに関連することが最近わかってきている。つまり、食文化の形成に遺伝子も関与している可能性があると考え、野生の霊長類でも味覚の調査を始めた。ヒトの場合は環境要因を改変してしまうが、ヒト以外の霊長類は環境に依存して進化していると考えたためである。野生の霊長類はアジア、アフリカ、中南米に広く分布していて食べ物も様々である。案の定、これらの野生霊長類でも種や個体によって味覚受容体の機能が異なることが、遺伝子配列の比較やタンパク質の発現解析、行動実験からわかってきた。 こうなると、各地で霊長類が食べる食べ物にどんな成分が含まれるのか興味が出てくる。幸い、学会等で出会った各国の研究者からの誘いもあり、世界各地で霊長類が食べる食物の調査やサルの観察、遺伝子・生化学分析を進める機会に恵まれたので、その一部を紹介したい。ベジタリアンと非ベジタリアンのサル(中国、インドネシア) 最初に訪れたのが中国広西チワン族自治区の崇左市である。ここには北京大学の生物多様性研究所があり、白頭葉猴(White-headed langur)の保護区が設けられている。パンダの保護で名高い潘文石先生が次の保護対象として白頭葉猴を選び、自ら保護区内に基地を設けて日夜観察を続けている。我々は2010年から数度にわたりこの保護区を訪れ、サルの観察と食べている植物の調査を進めている。 白頭葉猴はその名に「葉」の字が入っていることからもわかるようにベジタリアンで、特に葉を好んで食べるコロブス類の一種である。崖を中心に生活し、夜は崖の決まった場所で寝る。潘先生らのグループはこの崖の目の前にタワーを建て、ハイビジョンカメラを設置して無線で基地まで映像を飛ばし、昼夜にわたり記録をするという方法で白頭葉猴の生態を観察している。食べているインドネシアでの調査中国での調査パンガンダラン国立公園崇左市中国 広西チワン族自治区インドネシア

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