FIELD PLUS No.15
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20FIELDPLUS 2016 01 no.15つくられた「野生の王国」 ケニア共和国南部のサバンナに位置するアンボセリ国立公園は、アフリカ最高峰のキリマンジャロ山を背景にアフリカゾウを見ることができることで有名な観光地だ。毎年10万人以上の外国人観光客が訪れ、野生動物を近くで見たり写真を撮ったりして楽しんでいる。観光客以外に人がいないその景色には「野生の王国」という言葉がピッタリだ。 しかし、実はそれは人工的につくられた「野生の王国」にすぎない。1974年、それまで数百年にわたって野生動物と共存してきた牧畜民のマサイをその土地から追い出して、アンボセリ国立公園がつくられた。つまり、今私たちが目にする「野生の王国」はたかだか40年の歴史しか持たないのだ。そして、そうした人間と野生動物の共存を否定する「野生の王国」は最近では批判の対象となってもいる。見すごされてきたマサイと野生動物の共存 そもそも、ヨーロッパの植民地となったアフリカでは住民(アフリカ人)は自然の破壊者と見なされてきた。その土地を奪って国立公園がつくられてきたのだが、「公園」といっても柵で囲まれているわけではないので、野生動物は自由にその内と外とを行き来している。つまり、国立公園ができた後も、その周囲では住民と野生動物とがそれまでと変わらずに共存してきた。それなのに「野生の王国」の中でいかに野生動物を守るのかということばかりが重視されてきたため、「王国」の周りでマサイと野生動物が共存しているという事実は見すごされてきたのだ。 それが1990年代になると、行動範囲の広い野生動物を守っていくためには国立公園の中で保全するだけでは不充分であり、その周囲で野生動物と共存している住民と協力して保全活動を進めていくことが必要だと考えられるようになった。そして、住民の保全活動への協力を得るためには経済的な対価を提供することが必要だと考えられるようになり、野生動物の保全と地域社会の発展の両方をめざす「コミュニティ主体の保全」の考えが広まった。「コミュニティ主体」をめざす取り組みの結果 私がアンボセリ地域をフィールドに選んだのは、1990年から政府やアンボセリ国立公園内で撮影した写真。キリマンジャロ山の頂上部には雲がかかり、ややかすんでしまったけれどお気に入りの一枚だ。住民が放牧地として日常的に利用している土地に(手前から奥へと)転々と落ちているゾウの糞。「コミュニティ主体の保全」のプロジェクトの結果として、地域の共有地にはこのような観光ロッジが建てられた。国立公園から数キロメートル離れた集落のすぐ近くに現れたシマウマ。アフリカのサバンナに暮らすマサイは歴史的に野生動物と共存してきた。彼ら彼女らは今日「コミュニティ主体の保全」という理念のもとで外部援助を受けるようになったけれども、野生動物との「外部者が求める共存」を拒絶している。それは一体なぜだろう?フィールドノート ケニアのサバンナでマサイと野生動物の共存を追いかける目黒紀夫 めぐろ としお / AA研研究機関研究員ケニアソマリアエチオピア南スーダンタンザニアウガンダヴィクトリア湖ナイロビアンボセリ国立公園キリマンジャロ山▲

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