FIELD PLUS No.15
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15FIELDPLUS 2016 01 no.15て枝を切り落とし、それを女性が集めて積み上げて火を放ち、その焼け跡でシコクビエというアフリカ起源の雑穀を栽培する。かつてシコクビエは彼らの主食であったが、今ではもっぱら酒の原料として栽培し、ミオンボ林帯の貴重な現金収入源となっている。開墾初年の焼畑では化学肥料なしでもシコクビエがよく育つため、その商品化が焼畑拡大の要因の1つと目されていた。 膨張する都市では大量の電気や燃料を消費するようになっていた。電力のほとんどを水力発電に依存しているタンザニアでは、水不足によって停電が頻発するようになり、水源林の保全が強く叫ばれるようになっていた。一方、都市での調理には依然として安価な木炭が使われ、都市の膨張にともなって大量の木材が消費されていた。こうした都市の矛盾した要求に応えるべく、タンザニア政府は各地で植林事業をすすめてきたが、植林地の多くは保護林であって利用できなかったため、植林に対する住民の意気は上がらず、植林事業は普及しなかった。今では、林の管理を地域住民に委ねる自治体も多いが、木炭の買い取り価格が上がり続けるなかで、住民に製炭の自制を期すのは難しい。ミオンボ林を残す試み この30年のあいだ、国の周縁地域では物資の流入とは裏腹に生活水準はむしろ下降傾向にある。とくに農業生産力の低下は深刻で、それが慢性的な養分不足によることは疑う余地がない。連作によって肥沃な表土が流亡し、乏しい植生ではそのロスを補うことができない。農民は林のバイオマスが地力の源であることを知りながら、現金稼得というプレッシャーのなかで残り少ない林に斧を入れてきたのである。 この悪循環から脱却するには、環境と経済のあいだにポジティブな関係を創り出す必要がある。経済の低迷が環境破壊を引き起こしてきたのは、林地の経済的な価値が低いことに根本的な原因がある。言い換えれば、林の経済的価値を高め、そこから恒常的に収益を得ることができれば、林の無秩序な伐開や売却を抑えることもできるだろう。経済的価値を有した人工林をつくって適正に管理・運営すれば、そこから現金収入・燃料を得ることができ、さらに自然林(ミオンボ林)への負荷を軽減することもできる。また、干ばつの影響を受けにくい木本植物を生計の基盤に据えることで、農村の生活は俄然安定するはずである。意識を「育てる」 アフリカの農村部では、地域経済の向上や環境保全を目的として、これまでにも様々な支援事業が実施されてきた。しかし結果的には、その多くが地域住民の継続的な関与を得られないまま消えていった。アフリカにおける環境保全事業は、住民の主体的な参加を基本とした内発的な発展計画のなかに位置づけられなければならない。ただ、日々の生活に追われるアフリカ農民にとって環境保全はまだ遠い将来の課題であり、目前の食料不足や貧困への対処なしに環境問題を内包した発展計画を構想するのは難しい。 そこで私は、タンザニアの農村において環境保全、農業の集約化、経済の活性化が強くリンクした総合的な活動に取り組むことにした。住民の意識改革や活動への主体的な参加を促すために、まず彼らの関心と環境を繋ぐ活動に着手した。最初に取り組んだのは河川での水力発電であった。発電といっても携帯電話の充電や居間のわずかな照明をまかなう程度の小さな発電ではあったが、それは無電化村にとって大きな第一歩となった。発電はそれ自体が現代的なニーズとして彼らの関心を惹きつける効果があった。そして、電力は環境と経済を繋ぎながら資源がポジティブに循環するための触媒として作用していった。 発電施設はすべて現地の資材・技術・労働力で手作りしたため発電までに2年を要したが、河川を活用する取り組みとその成功体験は地域に大きな刺激と自信をもたらすとともに、事業自体が住民に環境保全と生活改善の連繋を意識させるきっかけとなった。川の水位が屋内照明と連動することで、灯りが暗くなれば住民は自ずと水位が低下した原因について考えることになった。その結果、彼らは環境破壊を自分たちの生活に密着した課題として捉え、保全活動を具体化していったのである。 植林活動はまだ緒についたばかりで技術的な課題は山積しているが、木の生長に一喜一憂する彼らの姿に、植林がミオンボ林の農村社会に内在化されていく確かな手応えを感じている。これまでアフリカで育林が活発化してこなかったのは、「保全」があまりにも強調されすぎたからかもしれない。現地の人たちが「利用」できる林を育てることが、結果的には環境破壊の最前線であるミオンボ林の修復と保全への近道であると実感している。調査地の川に設置した「らせん水車」。らせん水車は大正時代に富山県で開発された技術で、緩傾斜でも発電することができる。植林用の苗床。乾季に苗を用意し、雨が降り始めると移植する。家の周りに木々を植える。苗を柵で囲って家畜から守る。

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