13FIELDPLUS 2016 01 no.15民俗学 フィールドワークの主要な方法のひとつに参与観察があります。現地の人びとの生活の中に身を置いて、人びとと同じことを同じようにすることによって、さまざまな社会・文化事象の理解を深める狙いがその基本にあります。けれども、今回ご寄稿の3氏はさらにもう一歩踏み込んで、人びととともに新たな活動を開始したり、展開したりして、フィールドへのより積極的な関与を実践してきました。そこには新しい何ものかが生まれ、根づき、着実に「育って」います。熱帯アフリカのタンザニア、東南アジア島嶼部のインドネシア、日本の新潟県小千谷市からの報告をお届けします。 伊谷樹一さんは、タンザニアの農耕民社会で調査・研究を続けるアフリカ地域研究者です。熱帯雨林帯の周囲に広がる乾燥疎開林であるミオンボ林の環境破壊に対して、まずは住民の意識改革や活動への参加を促すために河川での水力発電に着手しました。その成功を契機に、ミオンボ林を保全するだけでなく、人びとが利用できる林として「育てる」ための植林活動に取り組んでいます。 塩原朝子さんは、インドネシアのスンバワ島で少数言語のスンバワ語の調査・研究を続けてきた言語学者です。塩原さんはスンバワ語コミュニティの人びととともにその言語・文化を記録し公開する活動を「育てる」ための支援を続けるのみならず、インドネシア各地で講義やワークショップの開催といった活動を展開しています。 菅豊さんは、日本や中国で調査・研究を続けてきた民俗学者です。小千谷の重要無形文化財である闘牛の「勢子」であり「牛持ち(所有者)」でもある菅さんは、慣れない闘牛の技術を習得してゆく過程を通して、闘牛という伝統の担い手として人びととともにその伝統を継承する活動をしてきましたが、伝統は継承というよりもむしろ「育てられて」いると表現したほうがよいといいます。 フィールドで「育てる」とは、対象が樹木であれ、言語記録の手法であれ、伝統であれ、その根幹には現地の人びとの能動的な活動があること、そしてそうした活動に寄り添うことの大切さを改めて知ることができると思います。〈河合香吏 記〉
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