FIELD PLUS No.14
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3FIELDPLUS 2015 07 no.14 and Anthropology 人間は、家族、仲間、民族、国家など、大小さまざまな集団のなかで他者と「ともに生きる」術すべをもっている。一生物種としての人類は群居性動物として生きる霊長類に属しており、集団で生活することを原則としているのである。本特集では、ヒトとヒト以外の霊長類の社会を紹介しながら、人類が高度に進化させてきた「ともに生きる」術、すなわちその社会性(sociality)について考える。 人類がチンパンジーやボノボとの共通祖先から分岐したのは約700万年前といわれている。地球生命全体の進化から見れば比較的最近の出来事である。だが、直立二足歩行を開始し、ヒトとして進化の道を歩み始めたわれわれの祖先がどのような社会性を進化させてきたのかを知ることは、それらが化石としてかたちに残るものでない以上、容易なことではない。それを知るには、ヒトの社会と、現生のヒト以外の霊長類の社会を比較検討することが有効な研究手法となる。 本特集では、野生の大型類人猿の社会で調査研究をしてきた2人の研究者と、自然により強く依存して生きるヒトの社会で調査研究をしてきた2人の研究者が、いずれも長期間に及ぶフィールドワークの成果に基づいて、「ともに生きる」とはどのようなことなのか、それはいかにして可能になっているのかについて、進化への目配りをしつつ、臨場感あふれる生き生きとした論攷を寄せている。具体的には、アフリカの季節的に乾燥する森林で離合集散を基本とした集団編成をするチンパンジーの社会、アフリカの熱帯林で種を越えて同所的に生活するゴリラとチンパンジーの社会、同じくアフリカの熱帯林で数家族が集まって自立的かつ自由なバンドという小集団で移動生活をする狩猟採集民エフェの社会、カナダの北極圏で野生動物の狩猟という生業活動を生活の中心に置きながら伝統的な拡大家族を維持し続けるイヌイトの社会、という4つの社会を描く。この特集は東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の共同利用・共同研究課題「人類社会の進化史的基盤研究(1)-(3)」(テーマは2005〜08年度「集団」、2009〜11年度「制度」、2012〜14年度「他者」)の3期10年の成果の一部です。責任編集 河合香吏

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