21FIELDPLUS 2015 07 no.14鍋や皿などのごみを荒廃地に投入することである。最近では、都市の内部に蓄積するごみを持ち運び、自分の畑に投入する人も出ている。もうひとつの方法は牧畜民との野営契約である。乾季になると、農耕民の村びとたちはフルベやトゥアレグの牧畜民に、家畜とともに自分の畑に滞在するよう依頼する。畑には大量の家畜の糞が落とされ、その糞が翌年以降の農作物の養分となるのである。この野営契約には、トウジンビエや現金の謝礼が牧畜民に支払われる。都市のごみをつかった緑化活動 わたしは2003年から、農村のごみ、あるいは、都市のごみを利用して、緑化の実験を繰りかえしてきた。都市の生活者も近郊に農地をもち、農業や牧畜をおこなっている人が多い。その生活から植物や動物、すなわち生物に由来する有機ごみが大量に出てくる。それらの作物のわらや家畜の糞を荒廃地に投入するのである。2008年から開始した圃ほじょう場実験では、1m2あたり20kgの有機ごみを投入すると、1年目には46種の植物が、乾燥重量にして1m2あたり496グラムも生育してきた。植物は土壌から養分を吸収して生長する。しかし、その植物を刈り取っていくと、結果的に土壌から養分を収奪することになり、3年目から土地はふたたび荒廃していった。ごみの投入により土地の植物生産力は回復するが、植物を刈り取って、持ち去ると、土地はすばやく荒廃することも分かった。 2011年から、より大きな規模で、都市のごみを荒廃地に投入することにした。家畜が自由に植物を食べていくと、草地は急速に荒廃してしまうため、50m四方の荒廃地をフェンスで囲うことにした。そこに150トンの都市ごみを投入した。わたしが日本や欧米の学会で、この活動を紹介すると、かならず、重金属やビニール袋などの有害性が話題になった。そこで、都市のごみの化学性を分析したところ、ごみには大量の栄養分が含まれており、家庭から排出された直後のごみには、有害物質は含まれていなかった。有害物質が含まれていたのは側溝のどぶさらいや道路わきで長期間にわたって放置されているごみであった。 ハウサの村びとたちは、荒廃地にビニール袋がふくまれていることを気にはしていなかった。逆に、ごみにビニール袋がふくまれていることで、土壌中の水分が蒸発しにくくなり、乾燥や直射日光に弱く、捕食者の多いシロアリの生息場所となっていると村びとたちは話した。乾燥地のシロアリは、温帯地域のミミズのように有機物の分解をすすめ、地表面をやわらかくする働きをもつ。しかし、ビニール袋がフェンス外に飛ぶことは、環境を汚染するという他研究者の根強い意見があり、わたしは村びととともにごみをならし、ビニール袋が飛ばないよう、ていねいに砂をかけていった。40℃以上になる日中、ごみをならす作業は非常に厳しいものだった。 2012年9月、雨季のおわりに圃場を再訪すると、ごみを投入したフェンスの内部は、みごとな草地となっていた。この時期、農耕民と牧畜民のあいだには緊張関係が高まり、牧畜民は放牧地を探すのに苦労する。その牧畜民の家畜をフェンスで囲われた土地へ入れた。最初、家畜はフェンスのなかへ入ろうとしなかったが、人に追われてフェンスのなかに入り、落ち着くと、空腹を満たすべく、旺盛に植物を食べはじめた。わたしは、都市ごみによる緑化活動のねらいが当たったことを確信した。家畜が食べる植物がフェンス内になくなっても、夜間、フェンスのなかに家畜をとどまらせ、糞が落ち、栄養分を供給してもらうよう、牧畜民にお願いした。家畜の糞から生育する樹木 フェンス内の実験をはじめて3年目の2014年11月。フェンスで囲われた圃場を訪問して、驚いた。フェンス内の草は家畜によって、すでに食べられていたが、樹木が生長し、茂みを作っていたのである。都市のごみには、副食のスープに使うバオバブの種子、人が果肉を食べて吐き出したナツメヤシの種子、飢餓に苦しむ住民の救荒食料となるハマビシ科の種子が含まれており、これらの樹木が生育してきた。そして、アカシアをはじめ、サヘル地域に生育する樹木の種子が家畜によって、フェンス内へ運ばれてきたのである。一部の樹木については、種子が家畜の胃を通過することで、発芽が促進される。家畜をフェンス内に入れて、糞が落とされることで、フェンス内には13種、283本の樹木が生育してきたのである。それらは人間や家畜が日常のなかで利用する樹木であり、人の手が加わった二次的環境である。 急激な人口増加と農地の拡大、家畜頭数の増加、経済活動の活発化、都市の拡大──どれも、砂漠化を進める原因である。しかし、その条件を逆手にとって、都市ごみや家畜を砂漠化の防止と緑化に利用することは可能である。これからの緑化と環境修復には、単一樹種の森林をつくるという植林に集中するばかりでなく、都市ごみや家畜の有効利用にもとづく二次的環境の創造をめざすという逆転の発想が必要である。家畜の放牧と糞の供給:フェンス内に家畜を放牧するが、家畜が植物を食べるだけでは栄養分が持ち出されてしまう。そのため、フェンス内に家畜を2週間ほど滞在させ、糞を落とし、栄養分を土壌に供給する。荒廃地における緑化実験:10年以上にわたって、都市ごみを使った緑化実験を繰りかえし、その有効性と安全性を検証しつづけている。写真の中央が実験圃場である。樹木の生育:家畜の糞には樹木の種子が含まれ、雨季の到来とともに発芽する。家畜の胃を通過することによって、種子の発芽が促進される樹木もある。
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