FIELD PLUS No.14
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ニジェール川チャド湖20FIELDPLUS 2015 07 no.14サヘル地域の砂漠化問題 世界最大の砂漠、サハラ砂漠の南縁にはサヘルと呼ばれる地域が存在する。サヘルにおける砂漠化の問題は有名で、中学の社会科、高校の地理の教科書ではかならず取り上げられるトピックである。砂漠化は土地の植物生産力が低下し、土地が荒廃する現象を意味し、その原因は人口の増加、畑の休閑期間の短縮と過耕作、家畜頭数の増加、過放牧にあるとされる。わたしが調査するニジェ ール共和国は、サヘル地域に位置する国のひとつである。ニジェールの人口増加率は、年率3.7%である。この数字は、それほど高くないように思えるかもしれないが、20年ごとに人口が2倍になる驚異的なペースである。砂漠化のほかにも、干ばつ、乳幼児の栄養失調、飢餓、経済格差の拡大、テロや紛争の問題、治安の悪化など、多くの問題が存在する。 わたしの調査スタイルは、人類学でいう参与観察、つまりコミュニティでの住みこみを基本としたものである。西アフリカ最大の民族とされるハウサの農村に2000年から住みこみ、村に家をつくって、住民とともに生活し、人びととの交流や絆を大切にしてきた。サヘル地域の抱える問題を住民の視点から明らかにしようと努めてきた。 村では人口が急増し、村びとの農地が拡大しつづけている。この地域には農耕民のハウサだけでなく、牧畜民のフルベやトゥアレグも居住しており、ウシやラクダ、ヤギ、ヒツジなどを飼っている。毎年、7月から11月までの雨季になると、農耕民と牧畜民の生活スタイルがぶつかりあい、紛争が発生する。牧畜民の家畜が農耕民の農作物を食べてしまうことで、毎年、この時期に、両者の緊張関係が高まるのである。砂漠化のメカニズムと住民の対処方法 サヘル地域における砂漠化とは、どういう現象なのか、確認しておこう。それは、地表面の土壌が風や雨によって侵食され、流出することによって土地荒廃が引き起こされる現象である。この地域の土壌には砂が多く含まれており、粒子の細かい粘土が少ない。薪や建材を採取するための樹木の伐採、家畜の放牧による植物の採食、農耕活動による地表面の撹乱を受けると、砂が動きやすい状態になる。そこに強風が吹いたり、大雨が降ると、粒子の結合の弱い砂の多い土壌が流れ去るのである。すると、地中に埋まっていた堆積岩が露出してきて、そこが荒廃地となる。堆積岩はコンクリートのように硬く、地表面に露出すると、そこには植物も生えず、樹木の根がむき出しになってしまうのである。この土地荒廃プロセスが砂漠化なのである。 住民たちは、砂漠化から自分たちの畑をまもるため、日々の生活のなかで、ふたつの対策をとっている。ひとつめは、家の敷地にたまるごみ、家畜の糞や食べ残しの枯れ草、脱穀作業で出てくるトウジンビエの穂軸、ラッカセイの殻、使い古した女性の腰布、子ども用の衣服、穴のあいた都市ごみと家畜を使った砂漠化問題の解決と聞くと、意外に思うかもしれない。都市ごみには有害物質が含まれていると考えられがちであるし、家畜は砂漠化をすすめる原因のひとつだと考えられているからである。しかし、人口密度の高いサヘル地域で、砂漠化の防止や緑化をしようとすると、「逆転の発想」が必要になる。フィールドノート 西アフリカ・サヘルにおける都市ごみと家畜を使った砂漠化問題の解決大山修一 おおやま しゅういち / 京都大学荒廃地の発生:風と降雨によって地表面の土壌が侵食を受けると、堆積岩が露出し、荒廃地が出現する。侵食によって、樹木の根も露出する。荒廃地に対する都市ごみの投入:ごみには大量の栄養分が含まれており、有用植物の種子も含まれている。緑化するため、フェンス内の荒廃地にごみを投入する。荒廃地における草地の造成:雨季の到来とともに、多くの植物が生育する。トウジンビエやソルガム、カボチャ、アマランサス、ハイビスカスなどの作物と有用植物が多い。ニジェール共和国サハラ砂漠ニアメ調査地

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