31FIELDPLUS 2015 01 no.13ビルマ語の挨拶:「ミンガラーバー(こんにちは)」とかいてある。ヤンゴンのボージョーアウンサンマーケットにて。バンコクのTシャツ屋:MBKセンターにて。チベット文字Tシャツ:「タシデレ(こんにちは)」とかいてある。ラサで購入(2007年・約500円)。バングラ文字表Tシャツ:ダカにある私立のベンガル語学校で購入(2001年ごろ・約300円)。インドやバングラデシュで、普通にはみかけない。バングラ文字の一文字Tシャツ:ベンガル語にちなんで国際母語記念日が制定されて以来、国際母語記念日にまつわるTシャツがバングラデシュにあふれている(2003年ごろ・約300円)。シャツにあふれている。おなじ文字表であっても、発音記号をつけるかつけないか、文字の名前をつけるかつけないか、文字にまつわる絵をつけるかつけないか、こうしたちがいによって、一見にたような紋様のTシャツにも変異がうまれてくる。一文字Tシャツ 不思議なことに、インド系文字の本場であるはずのインドでは、文字表Tシャツをほとんどまったくみかけない。文字Tシャツなら目にするけれど、インドで聖なる呪文をあらわす「オーム」の一文字をあしらったTシャツばかりといってよい。 デーバナーガリ文字による「オーム」Tシャツはバンコクでもよくみかけるし、梵字Tシャツとして日本でお目にかかることもある。ひとことTシャツ 文字Tシャツとしてもっともありふれているのは、それぞれの文字で「何かひとこと」かかれているものである。挨拶ことばをあしらったTシャツが一般的だ。文字表Tシャツがあるような文字ならたいていは挨拶ことばTシャツがあるし、文字表がみあたらない文字でも、挨拶ことばがかかれているものであればみかけることがある。 挨拶ことばをこえて、さらにながい文章がかかれることもある。かわり種としては、「バンコク」の正式名称である「クルンテープ(以下100文字ほど略)」がタイ文字でかかれたTシャツや、インドの詩がデーバナーガリ文字でかかれたTシャツがある。インド系文字Tシャツの将来 東南アジア・南アジア地域でTシャツ自体はよくうられている。しかし、現地の人にうけいれられているかといえば、そのようなことはまったくない。 まず第一に、Tシャツは意外と値がはる。たとえばビルマのばあい、ミネラルウォーターが1リットルで30円ほどであるのに、Tシャツは庶民むけでも一枚150円はする。観光客むけともなれば250円から500円にまでなる。庶民が気楽にかえるようなものではない。 さらに、これらの地域では、襟つきのシャツを着用することが、とりわけ男性にとっては最低限のマナーであるようである。どんなに貧乏なリキシャひきであっても、かならず襟つきのシャツをきているほどだ。Tシャツをきて町をあるく現地の人は、非常にすくない。現地の人がTシャツをきることがあるとすれば、それが店の制服、チームのユニフォームであるか、もらいものであるばあいがおおいだろう。 では、誰がTシャツをかい、きるのか。それは、外国人を中心とした観光客であるか、こどもたちである。いずれも現地の社会からみれば「よそ者」であったり「一人前」とはみなされない存在といえる。Tシャツそのものが、東南アジア・南アジア社会において、いまだ「よそむけ」の商品であり、生活にとけこんではいないことをしめしているようにおもわれる。 インド系文字Tシャツの将来は、Tシャツをかう「よそ者」が、どれだけインド系文字に興味をもち、よろこんでかい、きていくかにかかっている。
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