行でも、これらのサービスが積極的に提供されており、その事業優先度は他地域のイスラーム銀行と比べて非常に高い。これは、アフリカに住むイスラーム教徒のニーズに対応したイスラーム金融サービスのアフリカ的展開と言えよう。そのようなサービスの成功が、近年のアフリカにおけるイスラーム金融の急成長を支えているのである。 他方、イスラーム金融にとって、アフリカでの実践の意義は何であろうか。近年、高度に商業化したイスラーム金融の実践に対して、イスラーム本来の理念を置き去りにしてはいないかという批判が多くのイスラーム教徒から寄せられている。その中で、相互扶助、貧困削減、弱者救済といった社会的側面を重視したイスラーム金融の見直しが提唱され始めている。そのような声にいち早く反応したのが、南アフリカの取り組みである。同国のNational Awqaf Foundationは、近代以前からイスラーム世界で長らく用いられてきた「ワクフ」と呼ばれる伝統的な財産寄進制度を、イスラーム金融に結びつけることで、これまでにない方法による社会インフラの整備を進めている。同国のイスラーム金融の規模は、中東産油国やイスラーム金融のもう1つの世界的ハブであるマレーシアと比べて非常に小さいが、このような取り組みは、イスラーム金融がめざすべき本来の方向性に合致するとして大きな話題を呼んでいる。いわばアフリカがイスラーム金融の将来像を考える上での壮大な実験場となっているのだ。 アフリカは、今後のイスラーム金融の成長と拡大を担う有望市場としての大きなフロンティアであるとともに、イスラーム金融自体の将来を占うための「フロンティア」としても注目すべき地域なのである。いずれの視角からも、今後のアフリカのイスラーム金融の行方を注視していきたい。29FIELDPLUS 2015 01 no.13タンザニア初のイスラーム専業銀行Amana Bankが提供する女性専用金融サービス(同行ウェブサイトより引用)。南アフリカ共和国の National Awqaf Foundationがイスラーム銀行と共同でマラウイで手掛ける井戸掘削支援プロジェクトの紹介ページ(同基金ウェブサイトより引用)。近代以前から用いられてきた「ワクフ」という伝統的なイスラーム型財産寄進制度が活用されている。Albaraka)が世界展開の覇を競っており、アジアから欧米まで手広く進出していた。サブサハラ・アフリカにおけるイスラーム金融事業もその一環として展開されたのである。 アフリカのイスラーム金融をめぐる動きは、2000年代後半に突如として活発化する。その火付け役となったのが、中東産油国の投資家たちであった。2000年代半ばの原油価格の高騰に伴って、中東産油国には膨大なオイルマネーが流れ込んだ。その投資先として、イスラーム金融に注目が集まり、その有望市場としてアフリカが選ばれたのである。 2006年8月のケニアにおけるGulf African Bankの設立はその象徴である。出資者には、成長著しいアラブ首長国連邦・ドバイの政府系投資会社を筆頭に、中東産油国の名だたる機関投資家が名を連ねた。同行はケニア初のイスラーム銀行であり、設立を契機として同国のイスラーム金融市場は一気に拡大した。現在、ケニアには、イスラーム金融サービスを提供する銀行が9行もあり、アフリカ随一のイスラーム金融拠点となっている。広がるイスラーム金融の実践 中東産油国によって触発されたアフリカのイスラーム金融ブームは、現地の銀行マンや企業家の大きな関心を呼び起こした。例えば、南アフリカの First National Bank、Standard BankやAbsa Group、ケニアのKCB(Kenya Commercial Bank)といった大型銀行グループが、自国でのイスラーム金融事業に乗り出すだけでなく、他国(タンザニアやボツワナ)でもそのノウハウを生かしてイスラーム金融サービスの提供を始めている。また、ジブチ、タンザニア、エチオピアでは、現地の企業家や投資家による独自のイスラーム銀行が作られるようになっている。このような現地資本によるイスラーム金融への参画は、国内金融市場の活性化だけでなく、従来とは異なる新たな金融ネットワークの構築をアフリカ大陸で作り出すことにつながっている。 イスラーム金融への新規参入が続くなか、1980年代にサウディアラビア資本によって作られたイスラーム銀行は、近年、イスラーム開発銀行の傘下に入りミッションの再定義が進んでいる。イスラーム開発銀行は、イスラーム諸国の社会経済開発支援を目的として設立されたいわばイスラーム版の世界銀行である。同行は、より効率的かつニーズに即した開発支援を行っていくために、傘下に収めた商業イスラーム銀行の活用に取り組んでいる。これまでイスラーム銀行のなかったマリ、ベナン、カメルーンでも、イスラーム開発銀行のイニシアティブによって設立準備が進んでいるという。アフリカにとってのイスラーム金融、イスラーム金融にとってのアフリカ このような多様な広がりを見せるイスラーム金融のアフリカ的特徴とは何であろうか。ここでは、アフリカのイスラーム金融でとりわけ人気を博している金融サービスに着目しながら考えてみたい。『メディアのフィールドワーク――アフリカとケータイの未来』(羽渕一代、内藤直樹、岩佐光広編著、2012年)の中で論じられているように、アフリカでは近年、携帯電話を使ったモバイル・バンキングが急速に拡大している。また、母国を離れて働く労働者を対象とした送金ビジネス、女性の社会進出のための企業支援サービスも活況を呈している。アフリカのイスラーム銀
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