28FIELDPLUS 2015 01 no.13フロンティア2つの「フロンティア」としてのアフリカのイスラーム金融長岡慎介 ながおか しんすけ / 京都大学、AA研共同研究員 信仰にねざしたビジネス・モデルを掲げるイスラーム金融は、イスラーム世界だけでなく欧米諸国にも急速に浸透していった。今、その波がアフリカ大陸を席巻しようとしている。ケニアのイスラーム銀行 First Community Bankが提供するモバイル・バンキング・サービス(同行ウェブサイトより引用)。世界初の商業イスラーム銀行、Dubai Islamic Bankの本店(アラブ首長国連邦・ドバイ)。40年にわたるイスラーム金融の歴史はここから始まった。サウディアラビア・ジェッダに本部を置くイスラーム開発銀行。近年、傘下に収めたアフリカのイスラーム銀行を活用した社会経済開発に取り組んでいる。エジプト・カイロのナイル河畔にそびえ立つFaisal Islamic Bank of Egypt。イスラーム金融のカラクリ 「イスラーム金融」とはいささか奇異な名前である。厳しい宗教戒律を持つイスラームが、金貸しと相容れるはずがないと思うからである。たしかに、イスラームの聖典『クルアーン(コーラン)』には、「利子を取るな」とある。しかし、イスラームの教義をよくよく読むと、「利子を取らずに金儲けをするのなら、いくらでも儲けなさい」とある。イスラーム金融は、この独特な商売推奨の教えを体現する存在なのである。 それでは、利子を取らずに儲ける金融などあり得るのだろうか。私たちの常識では、利子を取らない金貸しなど想像もつかない。しかし、イスラーム金融は、教義に則った独特なカラクリを編み出すことで商業化に成功したのである。そのカラクリの肝は、利益の分かち合いである。通常、私たちが銀行にお金を預ける場合、銀行がどんな経営をしているかに関係なく、決められた額の利子を受け取る。これに対して、イスラーム金融では、お金を借りている会社の利益を、会社・銀行・預金者の三者で分け合う方式をとる。会社が儲かれば儲かるほど、預金者がより多くの分け前を受け取ることができるのである。このような信仰と儲けを両立できるやり方は、見事に実用化に成功し、イスラーム教徒にも爆発的にウケた。筆者も、イスラーム銀行ができて初めて銀行を使ったというイスラーム教徒の友人を何人も知っている。 イスラーム金融は、1970年代に中東産油国で商業ベースの活動が始まった。その後、中東から東南アジアにかけてのイスラーム世界に広まっただけでなく、欧米諸国や国際金融センターにも急速に浸透していった。今や世界の50カ国以上でイスラーム金融の実践が見られ、市場シェアが2割を超える国も少なくない。21世紀に入り、その成長と拡大は加速しており、その最後のフロンティアとしてアフリカ大陸に熱い視線が注がれている。アフリカのイスラーム金融、その知られざる歴史と現在 イスラーム教徒が多数を占める北アフリカの国々で、イスラーム金融が発達することは想像に難くない。実際、エジプトやスーダンでは1970年代からイスラーム銀行が作られ、一定の市場シェアを持っている。 一方、サブサハラ・アフリカにおけるイスラーム金融の歴史も意外に長い。1980年代のうちに、西アフリカの各国(セネガル、ニジェール、ギニア、モーリタニア)でイスラーム銀行が相次いで設立された。1989年には、南アフリカ共和国でも取引が始まっている。これらの国々のイスラーム銀行は、いずれもサウディアラビア資本によるものであった。当時、イスラーム金融業界では、サウディアラビアの2つの大企業(DMIとDallah アフリカのイスラーム金融の現状(2014年10月現在、筆者作成)■■ イスラーム専業銀行がある国■■ 従来型銀行がイスラーム金融サービスを 提供している国■■ イスラーム型マイクロファイナンス専業銀行 のみがある国■■ イスラーム金融の導入を検討している国
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