FIELD PLUS No.13
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27FIELDPLUS 2015 01 no.13  情報流通の技術がこれほど発達した現代において、フィールドワーク(現地調査)をする意味は何か? 答えはいろいろあるだろうが、本書はその理由を詳しくは解説しない。その代わり、臨場感のあふれる多様な事例をとおして、フィールドワークが魅力的であるということをストレートに伝えようとする。 本書では12のフィールドワークのストーリーが展開されている。近いところでは日本国内の都市や離島、遠いところではアフリカの熱帯雨林や極地(!)まで、それぞれの章がカバーする地理的範囲はきわめて広い。また、各章が対象としている調査の内容も、オーソドックスな人類学的調査や最先端の科学観測、地域との協働を目的とした実践的な調査などさまざまである。12章は4つのパートに分かれていて、それぞれのタイトルは、Ⅰ「社会的活動としてのフィールドワーク」、Ⅱ「極地フィールドワークとの出会い」、Ⅲ「フィールドワーカーとフィールド」、Ⅳ「フィールドワークする私」である。 簡単に各パートについて紹介しよう。パートⅠは調査を円滑に進めるうえで必須な現地の人々との関係構築のプロセスに焦点が当てられている。出されたものは必ず食べる、調査とは直接関係ないお手伝いに精を出すなど、個人ごとの流儀のディテールが面白い。パートⅡでは「ロマンとサバイバル」という副題にふさわしく、ひときわ厳しい環境下での、誰もしたことのない調査への挑戦が生き生きと描かれている。パートⅢでは、現地の人々との相互作用から調査の新たな方向性が導かれることをテーマにしている。現地の人々の何気ないつぶやきや、異なる立場の人との思いがけない出会いといった小さなきっかけからフィールドワークが大きく変化していくプロセスが興味深い。パートⅣでは、フィールドには来たものの、どのように環境適応するか、自分の立ち位置をどのように定めるかに悩みつつ、手探りで調査を続けるなかでそれぞれの解決策へとたどり着く様子の詳細が描かれている。これからフィールドワークをしようとする人にとっては必読のパートだろう。フィールドワークへの誘い研究者の本棚黒崎龍悟くろさき りゅうご / 福岡教育大学              人はなぜフィールドに向かうのか? フィールドに何があるのか? 多様な事例をもとにフィールドワークの魅力を探る一冊。 フィールドワークが魅力的であるというメッセージは、フィールドワークに定式化されたノウハウはない、ということと表裏一体にあるようだ。本書では、個々のフィールドワーカーが先達のあらゆる経験を教師・反面教師にしつつ、自分なりのスタイルを作り上げていくプロセスを読者に提示する。フィールドワークの先々にはうまくいかない状況や思いもかけない展開が待っている。そこでの試行錯誤がフィールドワークのポイントであり、魅力の源泉になっているのである。 そしてこうした試行錯誤を支えるのが、フィールドでの人間関係だ。本書に登場するフィールドワーカーたちは、ちょっとしたアドバイス・手伝いから専門的な技術協力を得るに至るまで、事例によって程度の差はあるものの、周囲の人々から精神面・物質面で助けられている。それらが実現していたのは、各章のフィールドワーカーたちが現地の人々(やフィールドを共有する研究者仲間)と真摯・誠実な態度でつきあいながら、フィールドワークを展開してきたからであるように思える。本書をとおして改めて考えさせられたことは、このような人間関係の構築が、フィールドワークにおける一番基本的で、しかし一番重要なファクターだということである。そしてフィールドワークを重ねるほどに現地の人々とのかかわりは深くなり、得られる情報や試行錯誤の質も高まっていき、発展的な課題も生じる。それがさらなるフィールドワークへの原動力となり、フィールドワーカーはフィールドに通い続けるのだろう。 これからフィールドワークを志す人、これまでフィールドワークをしてきた人どちらにも読み応えのある本であると思う。フィールドワーカーたちの素顔フィールドでの試行錯誤を支えるもの椎野若菜・白石壮一郎 編『100万人のフィールドワーカーシリーズ──フィールドに入る』(古今書院、2014年。本書は全15巻のシリーズの第1巻で、以下フィールドワークについての様々なテーマが取り上げられる予定である)

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