13FIELDPLUS 2015 01 no.13 今回のテーマは「かえす」。オーストラリア、パレスチナ、インドなどをフィールドとする3氏が、研究活動の中で、もしくは研究活動の延長線上で、それぞれのフィールドに何を、どのようにかえしてきたのか。三者三様の「かえす」を綴ってくれました。 言語学者の角田太作さんは、消滅危機言語の一つ、オーストラリア東北部のワロゴ語を長年にわたって研究してきました。この言語の最後の話者のもとで調査を行い、その成果を多数の著作で公開してきただけでなく、現地の人々への教育活動を通じてワロゴ語の再活性化運動にも協力することで、現地への「かえす」を実践しています。 中東地域研究を専門とする錦田愛子さんは、研究を進める過程でNGOの活動に携わるようになりました。ヨルダンに住む難民への奨学金支援を行う団体を立ち上げ、現在までおよそ5年。その道のりは、決して平坦ではなかったようです。しかし、それでもなお「かえす」ことに前向きにこだわりたい、という錦田さんの真摯な思いが今回のエッセイから伝わってきます。 国際協力を専門とする吉成安恵さんは、インドにおける飲料水のヒ素汚染問題の調査・研究と対策に携わっています。吉成さんが重視するのは、多様な経験と専門性を持ったメンバーが志を共有し、一つのチームとして活動すること。そうした活動を通じて学術的な調査・研究の成果を現地に「かえす」ことが、効果的なヒ素汚染対策事業の実現につながっていきます。 多くの研究者は、調査対象とするフィールドから、直接的であれ、間接的であれ、何かを「受け取る」もしくは「もらう」ことによって研究を行っています。その一方で、フィールドに何かを「かえす」こともまた重要な研究活動の一環と言えます。しかし、「かえす」ことは、恐らく「もらう」ことよりもはるかに困難でしょう。そうした中で、3氏がどのように「かえす」を実践してきたのか。エッセイに記されたそれぞれの模索の跡から多くを学ぶことができるはずです。〈苅谷康太 記〉国際協力
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