FIELD PLUS No.13
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11FIELDPLUS 2015 01 no.13場がひろがっている。そこではトマトやジャガイモなどを売る生鮮食料品店、雑貨店、仕立屋、美容院、レントゲン撮影が可能だという診療所、携帯電話店、ネットカフェなどがありとあらゆる商品を販売している。こうした難民キャンプの市場と携帯電話は深く関係している。 難民は国際社会の支援によって小麦・豆・食用油・メイズ・砂糖・塩・粉ミルクを配給されるので飢えることはない。だが移動・労働・政治的参加の自由をもたないまま、配給食によって「生かされる」難民の「生」は、カロリーと必須栄養素に還元されている。ところが実際の日常生活を見ると、難民は配給食とは異なるものを食べている。ソマリ人が好んで食するのはイタリア占領時代に根付いたパスタ料理や、ミルクティなどである。そのような慣れ親しんだ味覚を楽しむ食材を購入するために、難民は独自の食材流通ルートを構築した。まず難民の商人は携帯電話を用いて近隣のケニア人商人に食材を発注する。そして難民の商人は、届けられた食材をキャンプの市場で販売した後で44、携帯電話による送金サービスを用いて仕入れ代金を支払う。携帯電話が普及する以前は、衛星電話で外部と連絡していたという。それゆえ、かつての難民キャンプには、パラボラアンテナを建てた難民の電話業者がおなじ難民を相手にした情報通信ビジネスをおこなっていた。途上国で展開する携帯電話ビジネスは、支払い能力に保証がない貧困層をターゲットにしているため、通信料も先払い(プリペイド)方式である。だがダダーブの難民とホストの間には、この20年間に商品代金の後払いが許されるほどの信頼関係が醸成されている。そしてダダーブ難民キャンプにおける衛星電話や携帯電話は、移動の自由を奪われ、食糧配給によって味覚すら管理されている人びとが「生」のあり方を自らの手に取りもどすための手段として用いられてきた。現代アフリカを映し出すメディア 先に触れたムハンマドのように、多くの難民は衛星電話や携帯電話を用いて先進国で暮らす親族や友人に経済的な支援を要請するという。難民の多くは先進国に居住する親族や友人をもっている。ムハンマドもアメリカにいるという知人とチャットする様子を見せてくれたことがある。北欧への移住が実現すれば、今度は彼にも故郷の親族や友人から支援を要請する電話やメッセージが届くようになるだろう。空間的には距離が離れるわけだが、むしろだからこそ親族や友人との関係の調整は彼にとって頭の痛い問題であり続ける。他方、彼が生きてきた難民キャンプでの暮らし方が物語るように、携帯電話は空間的に離れた者同士を結びつけるだけでなく、難民とホストのように近接する他者との間に独自の関係を創り出すメディアにもなっていた。このように携帯電話は、それを利用する人びとの立場やおかれている文脈によって異なる意味をもつ多義的なモノであり、だからこそ現代アフリカに生きる人びとの暮らしを鮮やかに映し出すメディアになりうるのである。難民キャンプにむけた商品を運ぶバス。難民とホストが共創する生をささえるライフライン。携帯電話充電業者の仕事場。難民キャンプの携帯電話店。看板には携帯電話導入以前の情報通信インフラであったパラボラアンテナも描かれている。

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