30FIELDPLUS 2014 07 no.12シネヘン・ブリヤートという人々 中国・内モンゴル(内蒙古)自治区フルンボイル(呼倫貝爾)市の中心部を北に向かって流れるイミン川(伊敏河)。そのイミン川の支流の一つ、シネヘン川(錫尼河)流域にシネヘン・ブリヤートと自称するモンゴル系の人々が生活している。筆者は、彼らが使用するシネヘン・ブリヤート語の文法記述をおこない、中国語やモンゴル語などとの言語接触の状況を明らかにするため、継続して調査地に通っている。 シネヘン・ブリヤートは、モンゴル系・ツングース系の少数民族を中心に数多くの民族集団が混在するフルンボイルでは比較的新しい住民だ。国境を越えたロシア領内に、現在30万人以上が居住するブリヤートというモンゴル系民族集団がいる。シネヘン・ブリヤートの祖先ももともとはロシア領内に暮らすブリヤートだった。しかし、1917年の十月革命を端緒とする内戦から逃れ、ブリヤートの一部が国境を越えて亡命した。彼らはシネヘン川流域に居住することを認められ、現在その子孫約6,000人が暮らしている。「シネヘン川流域に暮らすブリヤート」ということで、彼らは他のモンゴル系の人々から「シネヘン・ブリヤート」または「シネヘンのブリヤート」と呼ばれ、また自らもそう呼んでいる。 こうした経緯もあって、シネヘン・ブリヤートの食生活には「古くから受け継いできたであろうモンゴルらしさ」「亡命後あらたに取り入れた『中国』らしさ」「かつて祖先が暮らしていた名残が垣間見えるロシアらしさ」が混在している。モンゴルらしい食文化 ウシやヒツジ、ウマなどの家畜を飼育する彼らにとって、家畜から得られる肉や乳製品はもっとも重要な食材の一つだ。これは、周辺に暮らすモンゴル系の民族集団にも共通する。飼育するウシやヒツジを解体し、それを食べる。屠殺・解体は外気温が氷点下となる11月におこなわれるが、客人をもてなすときには季節に関係なく、ヒツジを一頭その場で解体し、肉を内臓・血液とともに塩茹でにして食卓に供する。このとき、苦味がきつく他の部位にもその苦味が移ってしまう胆のうと、食材として市場で取引される小腸以外はすべて消費する。茹でられた肉や内臓はナイフを使って食べる。 肉はただ茹でられるだけではない。少量の野菜とともに餡にし、小ヒツジが茹であがるまで1 美味しそうなヒツジが連れてこられる。4 まるで服を脱がすかのようにきれいに皮をはぐ。2 みぞおち部分を切り、そこから手を入れて動脈を断ち切るとヒツジは瞬時に絶命する。5 肋骨部分を切り、まず内臓を取り出す。7 ジャガイモとともに茹でられたヒツジ肉。右側には上あご部分が見える。3 胸から尻にかけてナイフを入れる。6 腹腔にたまった血液はたらいに取り分ける(左下)。この後、胃腸内の洗浄と肉の切り分けをおこない、茹でる。8 胃袋に詰めて茹でられた血液は絹ごし豆腐のような食感だ。ボーズを包んでいるところ。ブリヤートのボーズは他のモンゴル系の人々のボーズよりもヒダが細かく形が美しいのが自慢だという。シャルビンを揚げているところ。揚げたて熱々のシャルビンは大変美味しい。Field+FOODさまざまな食文化の混在シネヘン・ブリヤートの食山越康裕 やまこし やすひろ / AA研約1世紀前にロシアから中国へと亡命したブリヤートの子孫、シネヘン・ブリヤート。彼らの食生活はモンゴル高原に暮らす他の民族集団とは少し異なる、さまざまな食文化が混在した独特なものとなっている。フルンボイル市ロシアモンゴル中国シネヘン川イミン川(内モンゴル自治区)
元のページ ../index.html#32