FIELD PLUS No.12
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ベンデの人びととの出会い タンザニア西部、カタヴィ州の主要3民族の1つであるベンデ人コミュニティでベンデ語調査をして10年余り。私は毎回、ほぼ同じ村に滞在するのだが、当初から定点調査を意図したわけではない。私の能力不足のために「もう一度あの人に会って、この質問をしなければ」と結果的に同じ場所へ通い続けている。ただ同じ場所に通い続けることで、いいこともあった。コミュニティの人びとと少しずつ信頼関係を築くことができ、最近は彼らによる言語再活性化のための活動にも参加するようになった。 近年では、自分たちの研究に必要な資料を手に入れるだけで現地に貢献しない収奪型研究を反省し、現地コミュニティと資料を共有するなど成果還元をすることが研究者の常識となっている。もちろん成果は還元したい。しかし実際、成果を還元するための活動には、気の遠くなるような時間と情熱が必要だ。現地の人びとにしても、私のような余所者がなぜタンザニアの民族のことばを知りたい、記録したい、言語再活性化の手伝いをしたいなどと言うのか、きっと何か裏がある、と思いたくもなるだろう。活動は必ずしも彼らに歓迎されているわけではないのだが、ではなぜそこへ通うのか。それは、先人が残した仕事を現地コミュニティに繋がなければという思いが強くなったこと、それに彼らこそが私たちが記録したベンデ語の最大の利用者だからだ。彼らは研究者とは違い、母語話者ならではの感性をもってベンデ語の成果物を利用する。タンザニアの言語危機とLoTプロジェクト タンザニアでは、アフリカ4大語族(ニジェール・コンゴ語族、ナイル・サハラ語族、アフロ・アジア語族、コイサン語族)すべての言語が話され、その数は120を超える。ニジェール・コンゴ語族であるバントゥ諸語以外の言語は、わずかな例外を除いてほとんどが消滅の危機に瀕しているという。バントゥ諸語といえども決して安泰なわけではなく、同系のスワヒリ語へ「言語取替え」が進んでいるのが、タンザニアの現実だ。 タンザニア政府はスワヒリ語を国家語、英語を公用語と定めている。マスメディアの使用言語も厳しく法律で定められており、タンザニア通信規制局(TCRA)は、2005年に定めた番組内容規定第15条(a)で、公共放送での使用言語をスワヒリ語・英語に限定している。政府主導でスワヒリ語が国中に浸透する一方、その他の民族語はまったく無視され続けており、特にバントゥ諸語は、同系のスワヒリ語にじわじわと侵食され、取28FIELDPLUS 2014 07 no.12フロンティア現地の人と共に語り継ぐことばタンザニア・ベンデ語阿部優子 あべ ゆうこ / AA研特任研究員 次の世代にベンデ語が継承されなくなっている。調査に協力してくれる現地コミュニティに対して、調査者はどんな貢献ができるのか。霊験あらたかな村のご神木とブシアンバ地区のチーフ。LoTプロジェクト出版物。村の中学校でセミナーを開催「ベンデ語を話したい?」。タンザニアモザンビークザンビアコンゴケニアウガンダコンゴマラウィルワンダブルンジダルエスサラームカタヴィ州ベンデ・ランドタンガニイカ湖赤道ベンデ語教材の共著者たちと内容の打ち合わせ。教材「ベンデ語を話そう」の表紙画(Hashim Seif Kaboko氏作)。

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