22FIELDPLUS 2014 07 no.12オマーン、カルハートの港市遺跡に残るビービー・マルヤム廟(2000年1月)。フィールドワークからの視点AA研50周年特別企画 AA研は、アジア・アフリカ地域を対象とした言語学、人類学、歴史学の研究推進を目的に1964年に創設されました。今年は創立50周年の節目の年となりますが、AA研における研究は、創立以来、常に「臨地調査=フィールドワーク」を一つの柱としてきました。 そこで今回は、AA研において、その草創期から文献研究とフィールドワークの融合を実践してこられたインド洋海域史研究の第一人者である家島彦一氏と、1990年代から家島氏とともに海外調査をおこなってきた中東地域研究者の飯塚正人氏のお二人に、フィールドワークをめぐるさまざまなテーマについてご対談いただきました。 現在をフィールドワークすることが歴史学にとっていかなる意味を持つのか。文献研究とフィールドワークとが「車の両輪」となる時、そのフィールドワークは現場でどのように実践されるのか。研究の対象や方法が多様化・細分化する近年の状況において、互いに研究テーマの異なる研究者たちが集う共同研究をどのように認識し、それを実りある問題発見の場としていかに育んでいくことができるのか。 歴史学におけるフィールドワーク、インド洋海域史研究、家島氏が詳細な訳注とともに完訳されたイブン・バットゥータの『大旅行記』(全8巻、平凡社、1996–2002年)、共同研究の在り方などをめぐるご対談は実に2時間以上におよびましたが、今回は、その内容を凝縮して皆様にお届けいたします。 それでは、歴史学者である家島氏がフィールドワークを始められたきっかけを振りだしに、お二人の話を伺いましょう。1歴史学におけるフィールドワーク飯塚◦家島先生がAA研で継続的に海外調査を始められたきっかけは、三木亘先生をリーダーとする共同研究プロジェクトによるものでしょうか。家島◦ええ、そうです。1972年の5月、板垣雄三先生の後任として三木先生がAA研に入られて、その2年後の1974年に文部省、現在の文部科学省の科研費補助金による海外学術調査「イスラム圏社会・文化変容の比較調査」が開始され、私はその研究分担者の一人として参加したのが最初です。その時、三木先生を中心としてイスラーム関係の所員、その多くは歴史学が専門でしたが、全員で頭をしぼり、深夜までかかって調査計画を立案し、申請書を作成したことを覚えています。もっぱら文書や写本などの記録史料を読んでいた歴史研究者がいきなりフィールドワークをやるということで、最初、何を研究対象とするか、どのような新しい方法を打ち出すべきかなど、戸惑いと苦心もありました。 その時、三木先生がとくに主張された2つの点、その1つはイスラームの生活・文化、とくに日々の暮らしや具体的なモノのレベルから捉えるという、いわば等身大の飯塚正人いいづか まさと / AA研副所長
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