14FIELDPLUS 2014 07 no.12という)。地中のイモを引き抜かないように、左手で抑えるようにして、芽を引き抜く、と本にある。しかし、それでは土中のバイキンがイモに入るではないか。そこで、地表に出た芽を鋏はさみで切り取った。すると、ジャガイモは全滅したのである。鋏の刃についた菌が芽の切り口から入るのだそうだ。 連作障害から始まり、肥料を好む作物、逆に肥料をやらない方がいい作物、作れば必ず虫にやられる野菜、夏の蚊やアブなどわたしを攻撃してくる虫、攻撃してはこないが出くわしただけで腰を抜かしそうになるヘビ、そして畑を全滅させたイノシシ……と、一年かかってやっと一つのことを学ぶ、その繰り返しである。ことはやってみないと分からない、ということを実感した。今もしている。それでも、「調査」をしたこと なぜ、こんなことを書くかというと、かくも無知であるわたしがアフリカのあの自然厳しき環境のもと、少雨に耐え、砂を含んだ風にさらされながら作物を作り、家畜を育てている人々の中で、厚かましくもあれこれと問い、「調査」をしていたからである。 わたしが滞在させてもらったのは西アフリカ、セネガル共和国のジョロフと呼ばれる半乾燥地域で、みずからを牛牧畜民として位置付け、その世界観も牛を中心に形成されているようなフルベの人々の村であった。アフリカ大陸の大砂漠地帯サハラ、そのサハラの南縁が西に出っ張った部分、大陸最西端に位置するセネガルの中央部から北西によった半砂漠状の乾燥域、一般にサヘルと呼ばれる降雨の少ない乾燥の地である。サヘル地域は大サハラ砂漠の南側に接するようにアフリカ大陸を東西に横切っているが、フルベの人々は東西3000キロ以上に及ぶこのサヘル地域の各地に分散している。言語はほぼ共通し、牛牧畜を重視する点でも共通している。セネガル・ジョロフ地方に暮らすフルベは定住村を形成し、牧畜だけではなく雨季の農耕もおこなっている。とはいえ、彼ら自身は自分たちをあくまでも牧畜民として位置付け、同地方で農耕を主としているウォロフの人々とは互いの生業の違いを利用する「もちつもたれつ」の関係にありながら、他方では土地利用をめぐって競合的な関係にある。 夏、雨季の間、フルベは自分たちが食べる穀物(トウジンビエ、ソルガム)を作ると同時に換金作物としての落花生を作る。わたしは落花生が地中にできる豆であることぐらいは知っていたが、それがどのようにマメを地中に作るのか知る由もなかった。落花生、つまり花を落として生きる豆という日本語が落花生の生態を踏まえた上で、まことに絶妙な表現で作られた語であることをフルベの村で暮らしてみて初めて知った。ましてやトウジンビエやソルガムに至っては見たことも、食べたこともなかった。トウジンビエは図に示すように細長い(40センチ以上にもなる)穂に小粒の実がつき、ソルガムのほうは少し大きめの粒が幾つにも分岐した穂につく。トウジンビエは播は種しゅ後3か月ぐらいで収穫可能だが、ソルガムは4か月ほどかかる。つまり、ソルガム栽培にはトウジンビエ栽培より多くの水(雨)が必要であり、ジョロフ地方での栽培はごく少ない。 雨の少ないサヘル地域にあっても雨季の畑には雑草が次々に生えてくる。セネガルの半乾燥地域には除草用具として大変特徴的なものがあり、フルベの人々はゴップと言うのだが、セネガルでは一般に「イレール」と呼ばれている。半月形というか、超音速ジェット機として知られたコンコルドに似た形の、幅20センチほどの鉄の刃をとても長い(3メートルほどもある)柄の先に取りつけたもので、人はこれを自分の胸あたりから前方に押し出すようにして表面土を耕す(写真を参照)。耕すというか雑草の根を切る。人は身をかがめる必要がなく、仕事が楽になる。除草だけではなく、垂直にもって播種用の小さな穴をあけるときにも使う。フランスが植民地化を始めた当初、ボルドー出身の商人イレール・モレル(Hilaire Maurel)という人が農具を売っていたことから、そこで売られていた農具が「イレール」としてセネガルに導入されたのだと言われることがあるが、はトウジンビエ(フィールドノートから)。セネガル、フルベの村の畑。特徴ある長柄の除草具。フルベの牧畜の村。
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