FIELD PLUS No.12
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13FIELDPLUS 2014 07 no.12ふりかえる1畑を始めて初めて分かること 定年退職後、これはまったく幸運であったとしか言いようがないのだが、家の近くに畑地を借りられるという僥ぎょう倖こうに恵まれた。拙宅から上り坂にはなるが、自転車で10分ほどの地。もう何年も前からほったらかされていた土地で、丈の高い雑草が生い茂っていた。さっそく鍬くわを入れ、雑草退治から始める。雑草の根元から大きなムカデが這い出してくる。ムカデは古い屋敷の天井裏などにいるものと思っていたが、地中に棲息するということを知ったのはこの時である。 荒地を鍬で掘り返し、耕し、畝らしきものを作り、どうやら畑らしいものにすることができた。なにしろ初めてのことであるから、畑入門の本に教えられるまま石灰をまき、マルチというビニール・シートもかぶせと、それらがどんな働きをするのか、なぜ有用なのか分からぬままにそうする。それなりに面積のある土地に何本もの畝うねを作り、あれもこれもと多種の作物の種をまき、苗を植えた。そうして一年目は特に肥料もやらずに野菜はとてもよくできたのである。 畑は簡単だ。種をまき、苗を植えれば、何でもできる。というわけで、友人諸氏に自慢めいた話をした。多くは感心してくれる。なかに、現役で大学で教えながら、畑どころか焼畑までやっているという人がおり、彼に意気高らかに話したところ、「うん、一年目は何でもよくできるんだ」と片づけられた。その一言で終わりである。そして、彼の言うとおり、二年目は一年目とは様相が大きく変わったのである。ナスなどひねくれた幹に日焼けしてぶざまなヤツが少しだけくっついている。野菜も日焼けするのか? トマトなど簡単にできるはずのものが、そういかない。実がついても、ひび割れする。ニンジンに至っては芽が出そろわない。野菜作りは簡単ではない。 だいたいわたしはものごとを知らなさすぎた。タマネギはジャガイモと同じように地下にいくつもの実(タマネギ)をつけるのだと思っていたのである。驚くべき無知と言うしかない。しかし、畝をぜいたくに使ったおかげで巨大なタマネギができ、これでまたまた畑は簡単だと思った。ところが、大きすぎるタマネギはおいしくなかったのだ。ジャガイモについて言えば、種イモを植え付けてしばらくすると何本もの芽が出てくるが、そのうち一、二本を残して、他は摘み取る(「芽かき」「知らない」ことを「調査」するのがフィールドワークではあるが……小川 了おがわ りょう / 東京外国語大学名誉教授、元AA研今になってやっと分かる、ということに気がつく。知らずに「調査」したことを恥じてももう取り返しはつかないのだが。セネガルアフリカジョロフ地方除草後、少し畑らしくなった。荒地状態だった畑。一応、畑になった(左の2枚とは反対方向から)。

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