フィールドプラス no.11
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パンジャーブ州アーンドラ・プラデーシュ州南アジアの郵便局で切手を買う、郵便を出す、写真を撮る。郵便局めぐりと郵趣マテリアルの収集から見える200年の近代郵便制度について紹介する。同じに見えるが透かしの向き、目打形式、版番号がすべて異なるインド1982年発行の10パイサ普通切手のシート(1989~2000年に購入)。パキスタン・ラーホールGPO、正面出入口そば(2004年撮影)。30英領インド・ジョージ6世普通切手に押されたラーホールGPOの消印(1939年)。インド亜大陸と郵趣 切手を中心に近代郵便に関するものを収集する趣味のことを「郵趣」と呼ぶ。集めるのは切手だけでなく、葉書や封筒、実際に運ばれた郵便物、郵便局のパンフレットなど様々で、これらを総称して郵趣マテリアルと呼ぶ。私はこの趣味を小学生時代から40年以上続けており、特にインド亜大陸に力を入れている。 インドの近代郵便制度は19世紀初頭に始まり、1854年に、郵便切手による料金前納、全国均一料金などが導入されて、ほぼ完成をみた。切手や全国均一料金の制度が地球上に誕生したのが1840年のイギリスなので、インドにおける近代郵便確立は世界でも早い部類に属する(日本はラーホールGPO、改修記念切手を貼った日本宛封書(1996年)。3枚の切手に押された1996年の消印と、英領インド・ジョージ6世普通切手に押された1939年の消印のタイプは同じ。1871年)。2010年時の郵便局数を見ると、インドで約15万5千局、パキスタンで約1万2千局。インドの郵便局ネットワークは、局数でみて世界最大である。 「インド亜大陸」という言い方をしたのは、私が現在のインド、パキスタン、バングラデシュの3国に係る地域の郵趣マテリアルを収集していることによる。1947年にインドとパキスタン(現在のパキスタンとバングラデシュを合わせた地域)が分離独立する以前のこの地域の切手事情は興味深い。宗主国イギリスの国王を描く英領インド切手が代表的だが、それ以外に、フランス領インドやポルトガル領インドでは異なる切手が使われていたし、イギリス直轄カラーチー郵便局で何をする? 古い郵趣マテリアル入手の基本は切手商やオークションなどを通じての購入だから、収集家が郵便局に行かねばならない理由はない。新切手の入手も、最近はスタンディング・オーダーといって業者が代行してくれるため、私もインド、パキスタン、バングラデシュの新切手入手はそちらに頼っている。郵便局はいつも混雑していて、その列に並ぶことはあまり快適でない。 それでも私はこれら3国での郵便局めぐりを続けている。では郵便局で何をするのか? まずは切手の入手。何度も印刷される普通切手の場合、一見同じ切手が、印刷方式や用紙、切り離す穴(郵趣用語では目め打うちと呼ぶ)の間隔や形式などが、少しずつ変化する。変化がないか、局員にお願いしてシートを丸ごと見せてもらってチェックし、丸ごとあるいは重要な部分を切ってもらって購入する。日付を記録するために消印を押してもらって一丁上がりとなる。  続いて郵便を出す。実際に必要があって郵便を出す場合もあるが、それ以外に、収集・研究用の郵便を自分ないし家族宛てに出すところがポイントである。昔の『地球の歩き方』には、切手を剥がされて届かないことが非常に多いから、郵便を出す時はポストに投函せずに窓口に差し出して消印を押すところを確認しろ、領でない間接統治の藩王国の一部は、インド国内あるいは藩王国内のみで有効な地方切手を発行していた。私の専門収集範囲は、これらの切手とそれに係るマテリアル、とりわけ1947年の分離独立や1971年のバングラデシュ独立の郵便史に関連した郵趣マテリアルである。ラージャスターン州インドラーホールデリーダカハイデラーバードField+POST OFFICEインド亜大陸の郵便局めぐりパキスタンバングラデシュ黒崎 卓 くろさき たかし / 一橋大学経済研究所

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