フィールドプラス no.11
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赤道ギニアカメルーンガボンコンゴ共和国ゴリラの人付け 「ゴリラの人付け」と聞いて、どんなことをするのかすぐにイメージが湧く人は少ないのではないだろうか。かつて日本のサル研究者たちが餌を用いてニホンザルを慣らしたが、これは餌付けと呼ばれる。ゴリラの人付けとは、「餌を用いずに同じ群れを長期間追跡することによって、人間に対する恐怖心をなくし、観察者がいるにもかかわらずゴリラが自然に行動できるように慣らすこと」である。 人付けをすることによって、研究者たちは多くを知ることができる。人付けの過程では、生息地の環境や彼らの移動ルートを知ることができ、痕跡(彼らの通った跡)上に落ちている食べかすや糞の内容物から何を食べているのかがわかる。さらに観察者の存在をゴリラに認めてもらえれば、彼らの生活を直接観察することが可能になるのだ。ヒガシゴリラとニシゴリラ ゴリラはヒガシゴリラとニシゴリラの2種が知られる。さらにヒガシゴリラはマウンテンゴリラと東ローランドゴリラの2亜種、ニシゴリラは西ローランドゴリラとクロスリバーゴリラの2亜種に分かれる。テレビなどでよく紹介されるのはマウンテンゴリラが多いが、日本の動物園のゴリラは、実はすべてニシゴリラ(西ローランドゴリラ)である。 現在人付けがされ、その社会や生態についての研究が進んでいるのは、ヒガシゴリラのほうである。ヒガシゴリラはほとんど木に登らず、地上で採食したり移動したりする。また彼らの生息地は下生えが密で、ゴリラの痕跡が非常にわかりやすい。したがって追跡が容易であり、人付けもそれほど難しくないのだ。ヒガシゴリラの人付けはルワンダを始めウガンダ、コンゴ民主共和国ではすでに成功している。現在では各地でゴリラ見物が観光化され、国の重要な収入源の一つとなっている。 それに比べてニシゴリラは木に登り、樹上の果実や葉を食べる。また彼らの生息地は下生えが少なく、痕跡が見つけにくい。さらには不快な虫が多く病気の蔓延しやすい熱帯雨林のため、研究者にとって長期滞在するには厳しい環境であることが多い。そのためニシゴリラの人付けはなかなか進まず、したがって彼らの生態や社会はいまだ謎に包まれているのである。農民によるゴリラの追跡 私たちの調査地であるムカラバ(ムカラバ-ドゥドゥ国立公園)が国立公園に指定される以前は、村人たちは国立公園内に住み、畑を持っていた。これが2002年に国立公園に指定されたとたん、彼らは公園を立ち退き、畑も移さざるを得なくなった。私たちは長期研究を行う上で近隣村民の協力は欠かせないと考えている。彼ら自身がゴリラやその他の自然資源を守らない限り、次の世代にもここに現在の動植物が存在することはできないからである。 一般にゴリラの人付けは動物の追跡に長けているピグミー系の狩猟採集民をトラッカー(森案内人)にして行う場合がほとんどである。しかし、ムカラバの近辺にはピグミーはいない。また、私たちとの調査活動を通じて村人に少しでも収入源を得てほしい、いっしょに働くことで自分たちの自然資源を理解するチャンスを得てほしいという気持ちから、私たちは村で働きたいと思っている若者に数週間の交替制で、トラッカーとして調査「人付け」は特に霊長類において、自然環境下で詳細な行動を直接観察するための手法のひとつである。現地の村人と長期間森にこもり、日々追い求め、やっとなしえたゴリラの人付けを紹介する。奇跡の日のグループ・ジャンティ。赤道草の陰から観察者をのぞくコドモゴリラ。日本人・ガボン人研究者と現地のスタッフ。リーブルビル28ムカラバ・ドゥドゥ国立公園テトゥアン安藤智恵子 あんどう ちえこ / 京都大学人類進化論研究室教務補佐員 フロンティアニシゴリラの人付け ──現地人との喜怒哀楽の日々

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