脚左脚右脚左脚右脚左脚右脚1拍 Sf● Sy●Q▲Q▲2拍 4拍Sxf●Ib◇Sb●Ef◇Qz▲3拍 H● Hy● QHw▲ 5拍 番号3 4 5 伝承・保存には有効で、私自身も試みていますが、その際にも分析単位の定義は重要と考えています。 音楽院では演奏の授業後にも記録をとることが多かったのですが、踊りや音を記す私を見て、音楽院の仲間たちは身体で覚えなきゃといつも言いました。実際彼らの音や踊りの記憶力はたいへん優れており、そう簡単には忘れない上に、習得した音や動作を応用して別の形を編み出すという能力──即興はこの能力の一つです──にも優れています。彼らの「記す」ことに頼らない習得の姿勢は、研究者という立場上「記す」ということに頼りがちな自分への戒めでもあるとともに、そのメカニズムの解明は舞踊・音楽双方の領域でも重要な課題の一つとなっています。トルコの民俗舞踊に不可欠の伴奏楽器、ダヴル(太鼓)とズルナ(管楽器)。トルコ全域で見られるが、写真は黒海沿岸の楽器でどちらも小さめ。後ろには手をつないでホロンを踊っている男性たち。イスラーム世界では表で踊るのは、まだ男性が多い。特に地方では、その傾向が顕著である。トラブゾン県にて。アブハズ系トルコ共和国民の村の結婚式で彼らの舞踊「アプスア」を踊り歌う人々。イスラームの受容が遅かった彼らは、改宗前からの男女ペアの踊りを継承している。デュズジェ県にて。図像学的なアプローチ トプカプ宮殿博物館が所蔵する『サライ・アルバム』という詩や図像が貼り合わされた宮廷詩画帳の調査に、舞踊・音楽図担当で参加したことがあります。描かれてから数百年もたっているとは思えないほど美しい絵画の数々に息をのみながら記録作業を行いました。収録舞踊図の中には唐代中国に西域から伝わった胡旋舞を想起させるような旋回舞踊図や、イスラーム世界の宮廷奏楽図で踊り手が持つ音具として数多く描かれるチャルパラーなどが含まれています。こうした図像には、ポーズや装束、背景や伴奏楽器、観客など、様々な情報が描きこまれていますので、動作を記録する技術が生み出されていなかった時代の舞踊や文イスタンブル国立音楽院民俗舞踊学科におけるトラブゾン県のホロン授業風景。指導をしているのは同県舞踊の第一人者ジャヴィト・シェンテュルク先生。トルコ東北部アルトヴィン県の舞踊「ホルミ」の脚部動作図例。化の変遷に少しでも迫るために必要不可欠な研究資料です。踊ることの社会的機能 音楽や舞踊を含めた芸能が共同体の潤滑剤として機能しやすいことは、世界中から様々な例が報告されています。冒頭で述べたように、トルコでも手と手をつなぎ心身ともに一体化させて踊る民俗舞踊習得の場はふんだんに設けられており、トルコ国民というアイデンティティ醸成装置の一つとしても機能しています。 その一方で、複数の民族・宗教を内包するトルコ国内では、それぞれの出自に基づく文化の継承も行われています。前述のような省庁管轄の公民館ではなく、民間の文化協会が多数設立されており、各集団の言語や食事、音楽や舞踊などを学ぶことができます。私はこれまで特に露土戦争の折徐々に──主には19世紀後半──現在のトルコの地に移住してきたコーカサス系トルコ国民の舞踊や音楽活動を調査してきています。彼らは自分たちの文化協会では民族衣装に身を包み、舞台用に発展させた華やかな技巧を織り交ぜた舞踊──これらのほとんどは、旧ソ連時代に彼らの故地で高度に発展した舞台舞踊の模倣です──の練習や公演を行ないます。ここでは故地との絆に基づいたコーカサス系のアイデンティティが醸成されます。同時に彼らは、写真のように村の結婚式などの通過儀礼では移住時携えてきた舞踊を慣習に従った方法で踊ります。ここでは村および下位集団という、よりミクロな単位でのアイデンティティが形成されます。このように国家主導の民俗舞踊も含め、場や背景の差異によって異なる舞踊の諸相が存在し、個人に内包されるアイデンティティの多面性や流動性、文化政策などの社会システムが舞踊という切り口から浮かび上がってきます。音楽や舞踊は他の文化とともに、人々の社会的諸相を如実に映し出す鏡の一つでもあります。今後もその諸相を見つめ続けていきたいと思っています。17FIELDPLUS 2014 01 no.11
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