アフリカカメルーンのバカの人々の間では、女性たちの合唱に合わせて、男性の演じる精霊が踊る。人々がそれぞれに踊るのでもなく、プロのダンサーの演技を鑑賞するのでもない、彼らにとっての踊りの楽しみ方を考える。ポリフォニーの合唱と「ベ」 1995年、初めてアフリカを訪れて以来、カメルーンの狩猟採集民バカ・ピグミーの儀礼を研究してきた。彼らの儀礼は、つねに歌と踊りとともに行われる。彼らは、50人程度の小さな集落を単位として、毎晩のように集落の中央の広場に集ま「リンボ」と呼ばれる精霊の衣装。精霊の感情の起伏に合わせていろいろな形を見せ、精霊の感情表現を担う。「リンボ」の相棒役(?)のような精霊「コサ」の衣装。14り歌と踊りを楽しむ。この集まりを「ベ」(「歌」という意味)と呼び、女性たちが行うポリフォニーの見事な合唱が焦点となる。そこに、男性の演じる精霊や呪術医(男性)が登場し、女性の歌に合わせて踊る。例えば呪術医は、踊りながらトランスに陥り、集落の将来を占ったり、病リンボとコサと戯れる人々。リンボと戯れる人々。人の病を癒したりする。歌と踊りは、娯楽であるとともに宗教的な営みでもある。 バカが属するピグミー系狩猟採集民のポリフォニーの合唱曲は広く知られており、CDも市販されている。私がピグミーの文化に関心を持ったきっかけは、彼らの合唱のCDだった。ピグミーの文化の神髄は音楽にあると思ったのだ。フィールドで私は、生業や社会構造についての基本的な調査を行いながら、楽譜も読めないのに、彼らの音楽を片端から録音した。もちろんまずは「ベ」の合唱。大人が留守の間、集落に残った幼児たちが小声で歌う歌。主婦の子カメルーンヤウンデ子供たちが大人の精霊をマネして遊んでいる。ンゴラ村守唄。毎夕、主婦に来てもらって、彼女たちの「持ち歌」を歌ってもらいそれを録音した。彼らの合唱曲は不思議である。単純なフレーズの繰り返しなのだが、異なるパートを組み合わせると、躍動感とドライブ感が生み出される。合唱に加わる人数が多くなればなるだけ、より壮大で奥深くなる。精霊の踊り 楽譜も読めない私が、音楽にどう研究者として関わっていけばいいのだろうか。行きついたのが「踊り」との関係である。アフリカ音楽といえば、リズム感で躍動する身体がまず浮かぶ。しかし、彼らの踊り方はそのようなステレオタイプには嵌らないものだった。では彼らの音楽は何のためにあるのか? それは精霊を「踊らせる」ためである。 彼らの「ベ」は、深い森を舞台としたパフォーマンスの世界でもある。夜の森という環境が格好の舞台を用意してくれる。原始の森の闇は深く、あの世にまで到達しているのではないかと思えるほどだ。女性たちが三々五々広場に集まり、膝を伸FIELDPLUS 2014 01 no.11都留泰作つる だいさく / 京都精華大学踊る 1カメルーンの森に踊る精霊
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