FIELD PLUS No.10
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Field+2013 07 no. 10フィールドプラス[発行]東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所〒183-8534  東京都府中市朝日町3-11-1 電話042-330-5600 FAX 042-330-5610定価500円(本体476円+税)[発売]東京外国語大学出版会電話042-330-5559 FAX 042-330-5199ら有名でした。たとえば既に西暦13世紀頃には、スールー産の真珠が中国へ輸出されていたとされています。 ちなみに日本で真珠と言えば一般的にはアコヤガイを母貝とする真珠が有名ですが、スールーで採れる真珠は、白蝶貝(Pinctada maxima)や黒蝶貝(Pinctada margaritifera)などを母貝とする真珠、いわゆる南洋真珠が中心です。 こうした真珠は、現地では伝統的にはサマ(ないしバジャウ)人と呼ばれる海の民によって主に採取され供給されてきました。彼らは素潜りで、ときには水深10m以上の海底に潜ってナマコや真珠貝などを採取する潜水漁の達人として知られた存在です。 スールー産の真珠の貿易は、とくに18世紀の半ばから19世紀前半にかけて最盛期に達しましたが、その後もフィリピンでは真珠が文化的にも重要な位置を占め続けてきました。たとえば、真珠は今でもフィリピンを代表する宝石とされています。また19世紀後半にスペインによって処刑されたフィリピンの国家英雄にして文学者のホセ・リサールは、その詩のなかでフィリピン諸島を「東洋の真珠」として詠い、その詩句は現在のフィリピン国歌にも引用されています。 手に取るとちっぽけな真珠であっても、実はこうして現地の文化や歴史的背景を感じさせてくれる存在です。フィリピンに旅行する機会がある方は、定番のドライマンゴーなどに加えて、ちょっと変わったおみやげとして真珠や真珠貝を買って帰るというのも良いかもしれません。ただしマニラなどのみやげ物店で売られている安価な真珠は、実際には中国産の淡水真珠であることが多いので要注意です。また逆に本物の白蝶貝真珠を使った宝飾品は、質にもよりますが日本円換算で1つ数万円から数十万円以上することもあり、そう簡単には手が出ないという人が多いかもしれません。 そこでお薦めなのが真珠貝、とくに白蝶貝の貝殻です。白蝶貝の貝殻はその真珠自体に比べればずっと安価ですが、貝殻が放つ独特の光沢は美しく、見ていて飽きることがありません。大きいものだと直径40cm前後にまで生育する白蝶貝は、伝統的に各種の装飾品や貝ボタンの材料などとして盛んに利用されてきました。現在でもその貝殻は、観光客向けのおみやげとしてフィリピン各地や東マレーシアのボルネオ島などで売られています。 今回は、私の調査フィールドの1つであるフィリピン南部のスールー諸島からのおみやげを紹介したいと思います。フィリピンからのおみやげと言えば一般的にはドライマンゴーなど熱帯産の食品加工物が定番ですが、なかにはパイナップルの繊維で作ったバロンタガログと呼ばれる衣服だとかセブ島で作られたギターなどを買って帰る観光客もいます。今回、私が紹介するおみやげは、それらのいずれでもなく、スールー諸島で私が調査した際に、記念に持って帰ることが多い真珠や真珠貝です。 スールー諸島と言っても、一般の方のなかには初めて名前を聞くという人も多いのではないでしょうか。この地域はフィリピンでは珍しくムスリムの多い土地の1つですが、またアジア域内でも有数の真珠の産地として古来か床呂郁哉ところ いくやAA研真珠を売るムスリムの女性(フィリピン、マニラにて筆者撮影。以下撮影者は全て筆者)。フィリピンの真珠養殖場で水揚げされたばかりの白蝶貝真珠。黒蝶貝の貝殻と天然真珠を囲むサマ人の子供たち。真珠母貝(白蝶貝)の貝殻。マニラスールー諸島フィリピン

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