FIELD PLUS No.10
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Field+ 2013 07 no.1028革命のテーマソング 3年ぶりに訪れたカイロ、新市街のナスル・シティーからタクシーに乗り込むと、カーステレオから流れる大音量に迎えられた。強いエフェクトの効いたボーカルはテクノ音楽のようだが、伴奏は伝統打楽器を用いた大衆歌謡そのものである。「マハラガーンかい?」と、20代半ばとおぼしき運転手に尋ねると「アイワ(そのとおり)!」との答えが返ってきた。マハラガーン、アラビア語エジプト方言で「祝祭」を意味する名を持つ新しいジャンルの音楽が、今エジプトの若者の間でブームを巻き起こしているという話は聞いていた。いざカイロに到着して街を見回すと、通りを走るタクシーやトゥクトゥク(三輪タクシー)の多くから、このマハラガーンのお祭り騒ぎのような爆音が漏れ聞こえてくる。これも、革命後エジプトの新しい音楽潮流のひとつなのだろうか。 2011年1月25日、社会変革を求める若者たちがタハリール広場に集まり、ムバラク大統領の退陣を求めて座り込みを開始した。警官隊との衝突を繰り返しながらもデモ隊は勢力を増し、エジプト全土で100万人を超える人びとがデモに参加したと言われる。そして18日後、ついにムバラクは辞任を発表し、30年にわたる独裁体制にピリオドが打たれた。これがいわゆる「エジプト革命(現地の呼称では「1月25日革命」)」であり、読者諸氏にとっても記憶に新しいことだろう。 この革命のさなか、さまざまなミュージシャンが現れて、彼らの主張を音楽にのせて歌いあげた。広場に集った若者たちは彼らの楽曲に耳を傾け、ともに歌い、これら革命のテーマソングとともに革命を成功に導いたのである。広場の若者たちを代表するミュージシャンとして、まず頭角を現したのは高級ショッピングモール内のCDショップを見ると、カイロキーのアルバムが売り上げランキングの1位と3位とを占めていた。彼らはインディーズからメジャーシーンへと見事のし上がったわけだが、CDを買えないより貧しい層の若者たちには、どのくらい彼らの声が届いているのだろうか。今も時折タハリール広場付近の道路が封鎖されるため、カイロ市内の渋滞は数年前よりいっそう酷い状態になっていた。交通標識かと思って見上げると、「エジプトが第一、いつも」という政府のスローガンが掲げられていた。Field+MUSICエジプト「ポップス」革命中町信孝 なかまち のぶたか / 甲南大学ラーミー・エサームである。デモの初日からギター持参で広場に現れ、群衆の真ん中に立って歌う彼を映した映像が、当時ユーチューブのサイトに挙げられ、彼は一躍革命のスターとなった(youtube.com/watch?v=gPhj5XnPjaU)。また、早くから革命に賛同していたミュージシャンとしてはもう一人、ラッパーのラーミー・ドンジュワンがいる。アレキサンドリアに住む彼はタハリール広場にかけつけこそしなかったものの、「俺は反政府」と題する自作のラップをこれまたユーチューブで公開し、ムバラク体制を強烈に皮肉った(youtube.com/watch?v=Uwai6oTAcMM)。 エサームの弾き語りロックとドンジュワンのヒップホップ、音楽ジャンルは異なるが、両者に共通するのは「1人で作れる低予算音楽」ということであろう。ギター1本、パソコン1台あればできる音楽に強烈なメッムバラク独裁政権を倒した「エジプト革命」は、音楽の革命でもあった。あれから2年、新しい国づくりへの模索が続くカイロでは、今も新しい音楽が続々と生まれている。

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