23Field+ 2013 07 no.10る。ところで、森での狩猟採集で一夜をすごすさいには、人びとは何かを燃やし、その煙で蚊などから安眠を守るのだそうだ。狩猟採集 狩猟採集では川魚がよくとられる。手釣りや毒流しもおこなわれるようだが、捕獲罠(写真4)や投網によることが多い。電気ショック漁法は魚がとれすぎるということで問題になったことがあるそうだ。ときに、上流での雨によって水位が増すと、さっそく例の便所のあるイカダと岸の間の水につかり、ザルをしずめ、そこにあつまっている小魚や小エビをすくう。そして、たいてい油で揚げて食べる。とれた場所を忘れているあいだは、これらはたいへん美味である。 大型の獲物がとれると村の中で分配される。「カヴッ」とよばれるオオトカゲ(写真5)を見たときはさすがに食べたいとは思わなかったが、「バヴイ」とよばれるイノシシ(写真6)はすこしいただいた。彼らの台所は、日本でくらす人びとにとって、魚をさばくところまでは同じ「台所」かもしれないが、生きたニワトリ、カヴッ、バヴイをさばくという点をかんがえると、小さな解体所を兼ねているように見えるかもしれない。 「ルキッ・カハッ」とよばれる緑色のセミはタンパク源としてこのんで食される。このセミは夜に明かりのある室内にまぎれこんでくる。手でつかまえ、羽をちぎってカマドで焼くこともあるが、そのままライターの直火であぶって食べることもある。 よく食卓にのぼる自然のめぐみは野菜である。雨のあとはかならずタケノコやキャッサバの若葉をとりにいく。とりわけ、にがい食べものが体を強くするとかんがえる人もおり、アクをじゅうぶんにはぬかず、にがいまま野菜を調理して食す家族もある。野菜でにがいものといえば、「シカッ」とよばれる、茎の芯の部分がある。さまざまな植物のシカッが食用だ。たいていかなりにがい。ただし、「ノサッ・シカッ」とよばれる芯のさらに芯の部分はみずみずしく甘い。不思議なものだ。その他の食べもの 口に入る頻度がもっともたかいのはインスタント・ラーメンだろう。ほかのアジア諸国同様、インドネシアでもこのんで食されている。種類も多く、近隣諸国に輸出されている。村での食べ方としては、通常の野菜スープを作り、そこに単なる食材として加えることが多い。これは、日本でいえば、ワンタンのような食材といえるかもしれない。ただ、最近ではインスタント・ラーメンが主役の料理もよく見る。また、インスタント・ラーメンそのものを食べる場合は、独特の調理法がある。袋をあけるまえに中の麺をくだき、最小限に袋をあけて粉末スープや調味油をとりだし、そこに湯をそそいで、麺と湯でパンパンにふくれた袋の口をねじり一定時間待つ。それを皿にだして味をつけるのである。意外にもしっかり調理されていて、鍋でつくるのと大差ない。これも不思議だ。 かならず食卓にのぼるのはコメである。稲穂が実る時季には地元で収穫したコメが食される。炊き方の優劣によって味がちがうので一概にはいえないが、コメにうるさい日本人の口にもあうと思う。しかし、現地の人びとの稲作の方法を知ると、きめこまやかな日本人はきっと驚愕することだろう。まず森の中の丘を切りひらき、木々を焼く。まるで荒らされたかのような灰と倒木だらけの丘を、棒をもつ者が地面に10センチ弱の深さの穴をあけながら歩きまわる。その穴に5~8粒の籾をまく者がつづく(写真7)。籾の穴はとくにふさがず、自然にまかせて稲がそだつのをまつ。雑然、混沌、放任としかいいようがないかもしれないが、できたコメはうまいのである。写真3 カティッ・カラ(kahtip kala:サソリ)。写真4 ブヴ(buwu)とよばれる捕獲罠にナマズやカニがかかっていた。写真5 カヴッ(kawuk:オオトカゲ)。写真6 バヴイ(bawuy:イノシシ)の頭部をさばく。写真7 野焼きで荒地となった森の中の丘で籾をまく。
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