19Field+ 2013 07 no.10ゼロはなんとしても避けるような調査計画が初めから立てられている。 さて、そうした中において調査で最も気をつけたいのが、健康面である。フィールド調査は、灼熱の砂漠の場合もあれば、極寒の大地の場合もある。その上、度重なる過酷な移動を余儀なくされることもあるので、健康でなければとても弾みをつけて調査など遂行できない。また、病気になれば、自分が苦しくつらい思いをするが、同行者にも迷惑や心配をかけるだろう。年代測定は、試料採取後、研究室に戻ってから年代値を求めるための作業が続くので、フィールド調査が終わったとしても体調を崩す訳にはいかない。これをフィールド調査での失敗に入れるかどうかはいろいろとご意見もあろうが、私は健康を維持できないのは「失敗」の始まりであると自分に言い聞かせている。フィールドで健康のために 気をつける 長期旅行同様、フィールド調査は非日常の連続である。それは大変心躍ることであるが、身体的にも心理的にも、かなりの負担がかかる。何分、おっちょこちょいな私は、何事も失敗しないようにいつも以上に気を張っている(つもりである)が、やはり普段と違う環境が少しずつ健康の歯車を狂わすのだろう。例えば、現地でいただく食事についても、内臓があまり丈夫とはいえないので、できるだけ気をつけながら楽しむようにしている。どこでも現地食はおいしくて満腹まで食べたいが、それを我慢して腹五分程度にする。それでも栄養を吸収する腸がなかなか許してくれない。いくら気をつけても、だんだんと内臓が疲れてくるのがわかる。また、睡眠もとっているつもりであっても、夕食後はその日の調査を整理したり次の日の準備をしたり、はたまた洗濯をしたり、夜空をながめたり……となれば、疲れも溜まりやすい。さらに、大陸の奥地へ行くと、空気の乾燥も日本の冬以上であり、呼吸器官へのダメージも大きい。 そんな中、身体に対して一番の打撃は、冷たい水の行水だろう。外国に行くと、お湯のシャワーというのは大変貴重だとつくづく思ってしまう。水浴びは、暑い地域であれば大丈夫(また、若いから平気さ!)と思っていると、これが意外と落とし穴である。少しずつ体力を奪われていくようで、風邪を引く一因になる。インド北西部、ハリヤナ州からラージャスターン州へ、インダス文明に関わる調査へ行った12月であっても、現地では半袖も可能な程の暖かさ。それでも、水浴びに移動疲れも重なって、帰国間際にはちょっとしんどいかなという体調であったが、帰国3日後には高熱とその後一月半余りひどい咳に悩まされることとなった。 他の失敗談では、3月半ば頃、考古遺跡の発掘調査に参加して九州へ行った時のことである。作業をするメンバーの中で風邪(もしかしたら、インフルエンザだったかもしれない……)が流行りだした。大部屋で寝起きをするので、瞬く間に風邪が蔓延したようである。私も漏れることなく、風邪を頂戴してしまったのだが、その遺跡での調査が終わった後、引き続き別の場所で年代測定用の試料採取が待っていた。まだ風邪の初期と思われたので、雪の降る中、無理して作業を行い、辛うじて帰還した。しかし、戻ってきた途端どうにも体が動かず、なんとか病院へ行って点滴を打ってもらったが、その後起き上がれなくなった。這うようにして家に戻ったものの寝込んでしまった。最悪なことに、調査から帰ってきてすぐなので、一人暮らしの家にはお米しかなかった。結局、お土産に買った漬物とご飯で栄養補給を行ったのだった。気ぃつけて行ってきんさい! そして、帰ってきんさい! フィールド調査は、とても面白い。見て、触れて、聞いて、食べて、匂いをかいで、そして感じて……。日常を離れたその体験は、その時々で思い出となり、日常に戻った時、この思い出が時間旅行になる。年代測定を行いながら、時空を超えてデータを解析する時、まさに至福である。しかし、時に調査中に危険なことにも遭遇するだろう(試料採取の時に、掘った穴が崩れて埋まってしまいそうになったこともある)。調査が成功するためにも、健康にフィールド調査を遂行して、無事戻ってくることがまずは一番だと思う。ルミネッセンス年代測定のための試料採取をはじめる直前。この方法では、遮光した状態で試料(ここではレス堆積物)を採取する。暑かろうが、寒かろうが、どこでも暗幕を被っての作業。暗幕内での作業は、土埃がひどいのでマスクをするが、毎日全身砂まみれである。(東北学院大学 佐川正敏先生撮影)インド・ラージャスターン州、アヌープガル近郊の食堂で。チャパティーを焼いている主人と、奥には料理が出てくるのを待つ調査同行者。中国泥河湾地域での調査最終日の夕食。現地で現場を案内していただく衛奇博士(右から3人目)や調査同行者と共に(筆者は後部左端)。
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