18Field+ 2013 07 no.10考えると悲痛な思いである。 私が参加する調査では、なるべく治安の悪い地域には行かないようにしているが、パキスタンでの調査では、銃器を所持した警察官が護衛についてくれた。これは、万が一のためである。モヘンジョダロの見学に行った時には、対応して下さった現地の先生から、夕刻以降は大変危険だから午後5時までには帰路につくことと仰せつかった。また、規模は小さかったけれど、町中で遭遇したデモ隊を見て、このようなことに慣れていない私は顔には出さないようにしながらも少々肝をつぶしていた。すると、同乗するドライバーが「心配ない!」と気遣って声をかけてくれたのであった。 別の国では、地雷が埋まる危険地帯と隣り合わせのフィールドもあった。実際に目の前にある立ち入り禁止区域を示すマークの存在は、テレビの中で映るものと違う独特な緊張感をもたらした。さらに、調査に入る地域がたとえ安全だとしても、近隣地域で情勢が不安定な時は、日本で待つ家族の心配も募るだろう。今回の事件の動向を聞きながら、上述したようなことが私の脳裏をよぎった。とても人ごとではすませられない出来事であった。健康あってのフィールド調査 その昔、冒険家植村直己の紀行文を読み漁ったことがある。彼が信念とした言葉として、「決して山で死んではならない」というのがあったと記憶している。大変大げさかもしれないが、フィールド調査で無事に戻ってくることが第一と私は思っている。それは国内外問わず、生きて帰ることは当然であるが、それと同時に「元気に!」である。フィールド調査で私が最も大切と思っているのは、調査の間健康で元気に過ごすことである。 今回のテーマである「失敗する」を伺った時、私の経験では、調査での失敗というのはほとんど思いあたるところが無いと思った(いや、喉元過ぎて忘れているだけかも?)。私のフィールド調査の主要目的は、考古遺跡やそれに関連する火山噴出物や砂丘などの年代を測定するために試料を採取することである。調査には、現地をよくご存じの方と一緒の場合が多いので、有り難いことに調査の面、そして宿泊場所や食事など生活の面で困ることは多くはない。また、昨今の研究費獲得の都合上、支出した調査費に見合った調査成果を挙げなければならないから、成果はじめに 2013年1月、フィールド調査を行う私にとって衝撃的なニュースが飛び込んできた。多数の死者が出たアルジェリアでの人質事件である。多くの犠牲者に哀悼の意を表したい。私に入る情報のほとんどは、マスメディアによるものであるが、多くのエンジニアや労働者が犠牲になったとのこと。彼らは故郷を離れて遠い異国で生活しながら、大きな成功を夢見て日々の仕事をこなしていたとフィールド調査では健康第一が失敗しないための第一歩下岡順直したおか よりなお / 京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設研究機関研究員フィールドは、とても面白く興味深い。しかし、そこは非日常的であり、心身ともに緊張の連続である。そんな中で充実したフィールド調査を遂行するためには、やはり健康で元気であることが第一である。失敗する3パキスタン、ヴィーサル・ヴァレーでの調査。警護に警察官(右端)が同行する。足下には、旧石器時代からインダス文明期に製作された石器が足の踏み場もない程、点在している。ヴィーサル・ヴァレーインドパキスタンハリヤナ州ラージャスターン州
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