13Field+ 2013 07 no.10古文化財科学 フィールドワークで得られる成果とは、現場での活動だけでなく、出かける前の準備と、帰ってきてからのデータの整理分析、そして報告という段階をどうクリアできるかにもかかっている。 山北さん(社会学)は、ホームレスの人々の支援活動という形をとりながらフィールドワークしてきた。さまざまな複雑な過去をもった方々にインタビューする行為は、語り手と聞き手に大きな緊張をもたらす。それゆえ調査者が計画したとおりに進まず、その経験がその後のフィールドワーク、研究について考えるきっかけとなった。これは「失敗」といえるのだろうか。 飯嶋さん(共生社会システム論)は、報告の段階でつまずいた経験を語ってくれている。失敗しないために「現地の視線を意識して書く」ことがひとつの方法である。人間を相手にした調査を人間が行うのだから、予期しない失敗が起きる可能性はつねにある。したがって、失敗との付き合いかたを失敗しないようにすることが大事なのである。 下岡さん(古文化財科学)は、経験者らとともに必ずなにかしらの成果を得るように調査計画・実施することが多い。そうしたグループでの調査も、過酷な自然環境で調査を遂行できるよう、調査者1人1人の注意力、調査への関わりかた、健康管理によって支えられる。調査分析を失敗しないために、調査者が健康で無事に帰ってくることが第一なのだ。 フィールドワークが計画どおりにいかなかった、しかしそこから得た学びや新たな思考のきっかけとなったことを、ある種の成果としていくような土壌をつくりたいものである。 失敗を語る、というどちらかといえば少々気がひけるリクエストにお応えくださった勇気あるお三方のエピソード、ともにご体験ください。〈椎野若菜 記〉 本企画は東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「社会開発分野におけるフィールドワークの技術的融合を目指して」(代表 増田研)の成果の一部であり、日本文化人類学会課題研究懇談会「応答の人類学」(代表 亀井伸孝)、フィールドワーカー活動団体FENICS(代表 椎野若菜)に引き継がれています。
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