FIELD PLUS No.10
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9Field+ 2013 07 no.10きの手間がいらないから便利だが、収量が少なく収穫期間も短いので有毒品種の方が多くつくられている。 タケノコと同じ「茹でて水さらし」 私にとって初めてのアフリカでのフィールドワークになったコンゴ民主共和国のソンゴーラの人々は、熱帯雨林で焼き畑をし、魚や肉、山菜や薬、道具や建築材料も自給している。ここではイネやリョウリバナナ、キャッサバ、サツマイモ、ヤマイモの仲間、アメリカサトイモ、トウモロコシ、トマト、トウガラシそのほかの野菜やアブラヤシが1区画の焼畑に混植されていた。 キャッサバを茹でてから薄く削り、きれいな泉の水に一晩さらす。ちょうど日本人のタケノコの食べ方と同じ方法である。「キブリ」というこの伝統的な料理は冷たく、暑い日に食べると口当たりが快い。薄く削るほど水さらしによる毒抜きが確実であるため、粘りがあり、削るとつながってリボン状になる品種が調理に用いられ、その仕上がりは美しい。野生ヤマイモの大きくて苦いムカゴも同様に水さらしをしてキャッサバと混ぜて食べるが、元来はこのようなムカゴの食べ方のキャッサバへの応用だったのだろう。発酵池に浸けて毒を抜く  熱帯アフリカの森の中には近づくと独特の強い臭いがする発酵用の池があって、皮を剥いたキャッサバの生芋を浸けておく。芋がやわらかくなったら毒が抜けている。これは芋の有毒成分を空気に触れさせないで、微生物による嫌気発酵で青酸を分離する方法である。水から揚げて潰せばペースト状になり、葉に包んで蒸して「ちまき」をつくる。毒が抜けた芋を乾燥する より乾燥した気候のサバンナでは、ドラム缶や大きい壺に芋を浸けて、上と同じ嫌気発酵によって毒を抜いたあと、芋の形のまま乾燥する。生芋は保存がきかず、掘って2、3日でだめになるが、発酵による毒抜きをすれば、食べられるようになるだけでなく乾燥保存ができる。水がない分軽く、持ち運びが容易で、大量につくって市場にも出せる。毒抜き+乾燥によって流通や商品化への道が広がったのだ。粉にできるので、加工が楽で多様な料理がつくれる。 主食として熱湯で捏ねて食べるウガリや葉で包んで茹でるちまきだけでなく、粥にしたり、熟したバナナを潰して混ぜて数時間ねかせると自然発酵でふくらんでくるのでこれをパンに焼いたり、揚げパンにするなど、ヨーロッパ人のやり方もとりいれて多様な料理がつくれる。これで酒もつくっている。 1ヶ月もつ湖水地帯の保存食 タンガニイカ湖畔のビラ人・ブワリ人のところでも暮らした。彼らが住んでいるのはミオンボと呼ばれる落葉樹林帯で乾季がやや長い。ここでもキャッサバが多く植えられていた。湖で魚を捕る漁民が多く、地引網でとれたイワシの干物ダガーは日本のいりこそっくりだった。ここのキャッサバは先に述べた生芋を嫌気発酵で毒抜きし乾燥して粉にするウガリが主だが、別の毒抜き法として、「茹でた芋を舟に水をはった中に浸けて嫌気発酵」させ、一度洗って「もう一度水に浸けて嫌気発酵を徹底する」という方法があった。それを潰してから葉に包み茹でて食べる。たいへん手間がかかるが1ヶ月でも腐らない保存食だという。カビで毒を抜く方法 タンガニイカ湖畔のウビラの町の市場で、白と黒の乾燥キャッサバ芋が並んで売られていた。いずれも粉にしてウガリに捏ねて食べる。白い芋は先に述べた、生芋を水に浸けて嫌気発酵で毒を抜き乾燥したもので、広い地域で行われている。しかし黒い芋は?これは皮を剥いてから山に積み、葉や草で覆って黒いカビをはやして毒を抜く「カビによる好気発酵」である。「芋から水分がしみ出て柔らかくなったら毒が抜けている」ので、乾燥し保存する。乾燥すれば軽くなり粉にできることは白い芋と同じだ。「これでウガリをつくると黒いけど、粘りがあっておいしいよ。黒いウガリを知らないお客さんには白い方を出すけど値段は同じさ」と売り手の少年が言った。このあたりに住むバントゥー系の民族であるビラ人やハブ人などがこの方法で食べるという。類人猿研究者のハブ人の友人も黒いウガリはおいしいと言う。毒抜き後長くねかせる方法 芋を摺りおろすところは南米の方法と同じだが、1晩置いて絞るところを、西アフリカでは数日ねかせる。青酸の分解には1晩で十分だが、長くおいて発酵させ特有の酸っぱい味と香りをつけるのである。絞って水分を除くと、均質な澱粉が残るので、粒ないし粉状にして乾燥し加熱したものを食べる。アチェケやガリと呼び、発酵食品特有の味や香りを好む西アフリカの都会でのファストフードになっている。「?」をあたためる このようにアフリカ大陸では、環境にあわせた多様なキャッサバの調理法が生み出された。それらは民衆の智恵の結晶ともいえる。フィールドで気づく「不思議!」や「これは変?」は尽きることがない。しかし、現場でその意味が直ちに理解できることは少ない。私のアフリカからの学びは、森の認知と利用、料理、酒づくり、毒抜きと広がっている。今年は久しぶりに西アフリカに出かけるのを楽しみにしている。嫌気発酵で毒抜きした芋を干す。干して保存し、粉にして料理する。(コンゴ民主共和国、キンドゥ)生芋の皮を剥いてドラム缶に詰める。水を満たして発酵させる。(コンゴ民主共和国、ウブワリ)カビ発酵のキャッサバとモロコシの粉でつくったウガリ。鶏の炒め煮と、野菜のつけ合わせ。(ケニア、カカメガ)茹でた芋を舟の中で発酵させる。ヤシで編んだ被いで被っておく。(コンゴ民主共和国、ウビラ)毒抜き後、乾燥した黒い芋と白い芋を市場で売っていた。(コンゴ民主共和国、ウビラ)

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