8Field+ 2013 07 no.10そのまま食べれば死ぬことがわかっているものを、あなたは栽培して食べるだろうか? ところが熱帯アフリカの多くの場所で、人々は毒抜きの方法を工夫してキャッサバを主食としているのである。キャッサバとの出会い キャッサバはマニオク、マンジョーカとも呼ばれる。日本でタピオカと呼ばれるものはキャッサバの芋の澱粉のことである。キャッサバは栽培植物の中では珍しく多くの有毒品種が食用に選ばれてきた。南米原産で、奴隷貿易の食料として16世紀にポルトガル人によってアフリカ大陸に持ち込まれたキャッサバは、挿し木で簡単に繁殖でき、収量が多く、乾燥に耐え、やせ地でも育ち、毒のおかげでバッタなどの害虫、サルやネズミなどの害獣に食べられることが少ないため、やがて熱帯アフリカ全体に広まった。2〜3メートルの木になり根に澱粉を貯めるが、糖と結合した形の青酸を含むので、多くの品種は食用にあたって毒抜きが必要である。 1978年から1980年にかけて、コンゴ川中流域の熱帯雨林や、タンガニイカ湖などの湖水地帯とそのまわりのサバンナでフィールドワークを行った私は、森や畑、市場などではつらつと働く女性たちから、リョウリバナナや米、トウモロコシと並ぶ主食のひとつであるキャッサバの毒抜きの技術と工夫を習った。できあがった料理は、原料が同じなのに加工法も見かけも味も食感もまったく異なっていた。その後、西アフリカや東アフリカの国々でも、さらに多様な栽培法や加工の工夫を教わることになった。面白いことに、アフリカには原産地の南米にはない調理方法がいくつも見つかる。キャッサバ栽培が広がった背景には、新しい作物を受け入れたアフリカの人々の努力と独自の創意工夫があったのである。原産地の調理方法 原産地である南米では、キャッサバを摺りおろして一晩おいてから細長い籠に入れ、籠を絞って水分を抜く。それを鉄板の上に広げて大きな丸いクレープのようなものに焼く。擂り潰すことで芋の細胞が壊されると、細胞内に隔離されていた分解酵素のはたらきで、糖と結合していた有毒な成分の青酸が分離する。青酸は水に溶けるので水分を絞ることで取り除ける。ところが、アフリカではこの方法が見られないのである。毒抜きがいらない品種 実は、キャッサバには芋に毒がほとんどない品種もある。これは芋を茹でてそのまま食べていいし、臼で搗くとマッシュポテトを少し甘くしたような粘りのある食感の食品になる。ソースやシチューと共に食べる。毒抜毒があるものをあなたは食べられますか? 熱帯アフリカのキャッサバの食べ方を追って安渓貴子あんけい たかこ / 山口大学非常勤講師、AA研共同研究員キャッサバの若葉を摘む。女性の手前の手を開いたような葉の植物がキャッサバの木。葉は臼で搗いてから煮ておかずにする。(ガボン、マコク)物々交換市に並んだキャッサバ芋。(コンゴ民主共和国、キンドゥ)ちまき。緑色が蒸す前、黄色が蒸した後。(ガボン、マコク)ソンゴーラ人の焼畑。イネやバナナ、キャッサバが混植されている。(コンゴ民主共和国、キンドゥ)ケニアタンザニアガボンウガンダコンゴ民主共和国コンゴ共和国(未調査)
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