2Field+ 2009 01 no.1「シングル」で生きる 巻頭特集 「シングル」という言葉は、80年代に出た『シングル・ライフ』(海老坂武)のベストセラーに端を発し、90年代の『パラサイト・シングルの時代』(山田昌弘)の影響をうけつつ、意味合いを変えながらしばしば使われるようになった。21世紀に入ってからは『おひとりさま』(岩下久美子)、『負け犬の遠吠え』(酒井順子)といった言葉が代わって世間を賑わしている。熟年離婚、年金問題もあいまって、このごろは『おひとりさまの老後』(上野千鶴子)なる本も注目をあびた。ここ20年、日本における「シングル」や「ひとり」というキーワードをめぐる関心はますます高くなっているようだ。 シングルという語は、「結婚していない/配偶者がいない人」の意で従来の家族像からある意味外れた存在としてとらえられることがいままで多かった。けれども変化の激しい現代、世界のあらゆる地域に目をむけたとき、(結婚していたとしても)さまざまな要因で「ひとり」になる状況がある。また逆に、(結婚していなくても)伝統的に「ひとり」にはしない仕組みを用意している社会もあるし、そのように変化しつつある社会もある。シンプルに考えてみると、基本的に人間はひとりで生まれてきて、ひとりで死ぬのであって、誰でもシングルなのである。世界に目を投じれば、その「ひとり」もしくは「シングル」のありかたはさまざまである。身近な感覚からちょっと想像してみよう。シングルで生きる、とはこのうえない自由があるので、自分にあらゆることの決定権があって、自分の楽しみも謳歌できる。ただ、その反面、寂しさもともなわないわけではない〈さびしい、楽しい、孤独〉。また「シングル」で生きるということは、どの人間社会にも結婚という制度があるのだから、いわゆる適齢期に結婚していないと結婚への圧力や願望が生じる。だからといって、誰かと結婚したからひとりでなくなるのではなく、いずれは別れという出来事がありうることを意味している。あるいは、結婚しなくとも代わりにパートナーを得てひとりでないこともある〈嫁とつぐ、別れる、嫁がない〉。また、「シングル」で生きるということは、経済的、精神的に自立するということでもある。しかし、それは実は、他者への依存があるからこそ可能になることでもある〈支える、頼る、たかる〉。もしくは、「シングル」で生きるということは、自由に移動しつつ、自ら稼いで生きるということである〈稼かせぐ、働く、移動する〉。さてこれから、世界の各地域をフィールドワークした経験のある文化人類学者に、こうしたトピックをキーワードとして人びとの本音をちりばめつつ報告してもらおう。責任編集 椎野若菜Si
元のページ ../index.html#4