FIELD PLUS No.1
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30 一般的に中東地域は、乾燥して暑い砂漠の国というイメージがあります。イランも北部のカスピ海沿岸部と南部の沿岸部などを除き、乾燥した暑い気候の国であると想像しても間違いではありません。しかし実際には、緯度的に日本とそれほど変わらないため、首都のテヘランには四季が存在します。夏は非常に乾燥し、気温も40度を超えますが、冬になれば市内に雪が降ることもあります。 さて、ここではイラン料理でも家庭料理として一般的な煮込み料理を紹介します。その前に、数年前に大学の調査でパキスタンのペシャワールを訪れた際、同行の観光ガイドに勧められ、地元の一般住民向けの料理店に訪れた経験から話を始めたいと思います。ペシャワールの店で出された料理は、羊肉と数種の野菜を使った煮込みとも、炒め物ともつかないものでした。料理人は、かなり大きな底の浅いフライパンのような調理器具を使いながら、ガスで手早く調理していました。イスラーム圏ですから羊料理がメインディッシュであるのは当然なのですが、一口食べて感じたのは、「肉が新鮮だけどかなり硬い! 煮込みが全く足りていない」という印象でした。 日本の料理番組を見ていると、しばしば「お肉が柔らかくておいしい」という表現を耳にします。実は、イランの肉料理も「柔らかい」というのは重要なおいしさの基準です。もちろん、日本のように飼育段階から手間隙かけた高級食材を使うわけではなく、肉の柔らかさは煮込むことで実現しています。煮込み料理であるなら、加熱時間さえかければ硬い肉も柔らかくすることができますが、単に食材に火を通すより、余計な燃料を消費することになります。(注1) イラン料理の調理基準に、「羊肉なら3時間、牛肉なら5~6時間は煮込むべき」という目安があります。このために多量のガスを消費しないと出来上がらない料理。それがイラン料理の知られざる一面です。パキスタンを旅して理解したのは、イラン料理というのは、石油輸出国にして、採掘可能なガス確認埋蔵量で世界第2位を誇る国だからこそ可能な料理であるということでした。実際、2006年の統計では、イランの天然ガス生産量は世界第4位、消費量に至っては、米国、ロシアに次いで世界第3位です。(注2)ちなみに現在のイランの人口は、約7500万人と言われています。燃料代が極端に安いからこそ、こんな調理法が日常的に行われているのです。(注3)鶏ムネ肉:250gを角切りにしておく。羊肉、牛肉でもOK。セロリ:4~5本を葉と茎を分けて、茎は3~4センチ程度の間隔で切る。下部の広がった部分は2つに切断。葉は大きめに刻んで別の容器に分けておく。タマネギ:大半分(大きめにみじん切り)。レモン汁:小ぶりの乾燥レモン(半分)が良いが、スダチやカボスで代用しても良い。フライパンか中華鍋にサラダ油とバターを入れ、スタンバイ。Field+FOODSイラン料理─実は豊富な地下資源の賜物?森島 聡 もりしま さとし/明治大学兼任講師肉屋さんで売られる羊肉。足先と頭は新鮮なうちにキャレパーチェと呼ばれる煮込み料理に使われるため、それらの部位は外されています。果物の種類が豊富なイラン。左からリンゴ2種、洋ナシ、黄桃、ブドウ。価格はキロ単位。この店の黄桃は、1キロ約274円。Field+ 2009 01 no.130

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