27Field+ 2009 01 no.1【亀井】 修士課程が終わり博士課程に進んだころ、人の研究をするためのテーマ探しをしていました。たまたまあるアフリカの調査をしている科研費(科学研究費補助金)のチームの会議におじゃまして、飲み会に流れたとき、先輩のアフリカ研究者たちに「どうする、行くか行かないか」と聞かれたので「ぜひ行きたいです」と答えまして。それがすべての始まりです(笑)。アフリカについて文献研究を重ねて、このテーマで調査に行きたいというような確たる準備もなかったのですが、本当に幸いなことに科研費のチームに入れていただきました。おもに中部アフリカのカメルーンで熱帯雨林の狩猟採集民を調査するチームなので、私も参加していきなり、じゃあ1年行ってこいと投入され、しかも、それでは足りないからもうちょっとおりますと申し出てさらに5ヶ月延長して、結局1年5ヶ月カメルーンにいたんです。【西井】 そのときは、生態学的な調査ですか。【亀井】 ええ、森の中で暮らす人びとが日々何を食べているかを調べたりとか、そういうことから始めていました。ただし、環境や動植物の調査から、次第に人びとがすることなすこと、たとえば交わされているコミュニケーションやことば、行動、社会関係などの調査が中心になっていきました。私は森の中で子どもたちの日常生活の調査をしましたが、日々どこでどんなことをして、どういう顔ぶれと役割で狩猟や採集をし、いつどのようにそれを覚えていったか、といった行動やコミュニケーションを重点的に見ていました。方法としては、対象集団に参加して直接観察したことを量的にとらえる手法を使うことが多かったです。【西井】 数えるとか、測るとか。【亀井】 ええ、生態人類学のお家芸です。こまめに数えて、測って、数字で記録するみたいなやり方はそのまま踏襲しながら、子どもたちの集まりについて行って遊びの仲間に入れてもらい、日常のさまざまな活動の調査をしていました。 それと関連して、そういった森の中に住む狩猟採集民の子どもたちに対して、キリスト教ミッションが学校をつくったり先生を派遣したりして、学校教育を普及させようとしていました。子どもたちがなかなか学校に来ないので、学校にバナナをもってきてみたり(笑)。【西井】 子どもたちを食べ物で釣る(笑)。【亀井】 そうすると、子どもたちはバナナはしっかり食べるんですけれど、集落のおとなたちが狩猟のために森に入ると、子どもたちも学校を休んでついていってしまいます(笑)。うまくいっているようで、なかなかうまくいっていません。そういう場面をあわせて見たりする中で、森の中の文化というのがそれはそれで完結しておもしろい世界をつくっているのと同時に、マジョリティや国家、制度がいやおうなしに関わってきていることも分かります。ただ、それに圧倒されてしまっているわけでもなく、一部は受け入れたり、一部はくぐり抜けたり無視したり、そういったマイノリティの人たちの柔軟なやり過ごし方というのがとても魅力的でした。ガーナの首都アクラ市にある、全国ろう者協会の事務所を訪ねる。会長のアサレ氏と(2006年)。ガーナの国立ろう学校を訪れ、生徒たちとおしゃべり。ろう児たちは、アメリカ手話から派生したガーナ手話で学ぶ(2006年)。 で話していた(2006年)。
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