FIELD PLUS No.1
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14Field+ 2009 01 no.1 フィールドワーク歴は長い。それはただ単に年齢が高いと同義程度の意味合いしかないが。最初のフィールドワークはタイ北部の山地だった、それから中国の雲南省、ミャンマーのシャン州やカチン州にも行った。 若い頃には弾けたボールみたいに海外のフィールドに飛び出した。大手を振って身軽に、手持ち資金が底をつくまで、いつまでもフィールドにいた。ところが、やがて日本でのしがらみが増えてくるにつれ、滞在期間はどんどん短くなり、下げる頭の数も多くなった。終いには、諸々の予定表を並べ合わせ、その間隙を縫うように、まるで美技としかいえないような時間取りをして、フィールドへ出るようになった。 フィールドワークの苦労話など経験者なら誰でも尽きることなく語れるだろう。航空便の遅延欠航はもとより、現地に辿り着いても、手違い、行き違い、勘違いはいくらでもあった。それに政変や天災が加わる。病気もある。近頃は調査期間が短いために、うまく行くと、ああ、運が良かった、うまく行かなければ、まあ、こんなこともあるさ、と予想外も想定内になっている。 それでもフィールドに出る。フィールドワークにはそれだけの醍醐味があった。研究者がよく口にするように「フィールドは裏切らない」のである。現地に行くと、必ず何か驚きがあった。ああ、そうだったのか、と思わず手を打つような「発見」が。フィールドは面白い吉松久美子 よしまつ くみこ/東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程カレンの老人世代がもっとも美しいと評する伝統的な正装。編み込みのターバン、銀製の耳飾り、腕輪、指輪、ビーズ玉の首飾りと赤いスカートを身にまとって煙草をくゆらす老婆。男たちは農閑期(12月~2月)に竹細工に精を出す。家屋を含めて日常品のほとんどが竹で作られていて、それを編むのは男の腕前であった。この老人は鶏かごを編んでいる。一方、女たちは機織に勤しむ。既婚女性用の赤いスカートを織るために糸を揃える女性。稲魂は極度に神経質なので脱穀から搬入までの作業は家族だけで行われる。娘用の白い衣装を身にまとって脱穀を手伝う10歳の少女。研究者としての歴ではなく質に問題があるのかもしれないが、私はこの頃、人が生きる場所と時代を越えることは無理なのではないかと疑い始めている。知る1

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