12Field+ 2009 01 no.1フィールドワークって何? テーマ:「知る」フィールドワークとは何をすること?フィールドワークの特徴は?フィールドワークから「知る」ことができるのはどんなこと?こうした疑問に対して、さまざまな分野のフィールドワーカーが体をはって得た経験が貴重な示唆を与えてくれます。 今回は、文化人類学、言語学、霊長類学の分野から3人の研究者がフィールドワークの実際とそこから感じたこと、わかったことを披露してくれます。 文化人類学のフィールドワークからは、なぜか懐かしさを感じさせる北タイの世界の中で、フィールドでしかわからないことが「発見」されます。生まれ育った環境とはあまりに異なる儀礼の調査が、そのまま日本における生活の中での思考に影響を与える思わぬ発見。自らの経験を足場にして、そこから人が生きる場所と時代に思いをめぐらせます。 言葉は生き物。言語学のフィールドワークは、言語という現象、システムの複雑さ、豊かさ、奥深さに対する深い驚きをもたらします。規則性を見つけて説明がつけられたと思ったとたんに、必ず例外が見つかりすり抜けられてしまう。「言語には勝てない」という実感と現実の複雑さに畏敬の念をいだきつつ、今日もフィールドに向う言語学者の姿は鮮烈です。それは、自分の「常識」の限界を知り、そのたびに常識の地平を広げる作業でもあるのです。 人間もその一員である霊長類を対象とした霊長類学のフィールドワークは、まず個体識別からはじめます。しぐさ一つで「あいつ」とわかるようになることが第一歩だといいます。そこから、ともに叫び鳴き、同じものを食べ、昼寝し…といったサルや類人猿を「知る」ためのフィールドワークに没入していくのです。しかし、最後に自己の中の不可解さを発見していく自己変革、自己発見の過程であることがわかってきます。フィールドワークの「怖さ」を実感させてくれる一文です。 フィールドワークを通して「知る」ことは、新たな自分自身を知ることでもあるのです。〈西井凉子 記〉
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