インド系文字の仲間たち |
北部・中部インドに広く通用する文字で、インド・アーリア系のヒンディー語、マラーティー語、ネパール語、サンスクリット語を書き表すのに用いられます。インド系文字の中では最大の5億の民が使っています。
インドの西ベンガル州と、隣接するバングラデーシュで話されるベンガル語(インド・アーリア系)を書き表すための文字です。アジア最初のノーベル文学賞受賞の詩人・芸術家であるタゴールの文学がこの文字で書かれています。また、東北部で話されるアッサム語の文字も、ベンガル文字とほぼ同じ体系を持っています。
現在世界の注目を集めるインド・パーキスターン国境に近い、インドのパンジャーブ州で話されるパンジャーブ語(インド・アーリア系)を書き表すための文字です。ターバンで有名なスィク教徒の聖典が、この文字で書かれています。
インド東部のオリッサ州で話されるオリヤ語(インド・アーリア系)を書き表すための文字です。クラゲの行列とか、坊主頭の行列とかいわれるような、文字の上の丸みが特徴です。オリッサのダンスはインド4大舞踊のひとつといわれています。
南インドのアーンドラ・プラデーシュ州で話されるテルグ語(ドラヴィダ系)を書き表すための文字。テルグ語を話す人口は約7000万人で、ドラヴィダ系言語の中で最大です。
インドのシリコンバレーといわれるバンガロールを州都とするカルナータカ州の言葉であるドラヴィダ系のカンナダ語を書くのに用いられます。
インド最南端のタミルナードゥ州で話されるタミル語(ドラヴィダ系)を書き表すための文字です。タミル人は古い文学の伝統を持ち、自らの文化に対する誇りを強く持っています。またタミル人は、スリランカをはじめ東南アジアのシンガポールやマレーシアなど、インド国外にも多く住んでいます。
インド南西端のケーララ州で話されるマラヤーラム語(ドラヴィダ系)を書き表すための文字です。複雑な文字であるにもかかわらず、ケーララ州はインドで最も識字率の高い州です。
南インドで伝統的にサンスクリット語を書き表すために用いられる文字です。タミル文字・テルグ文字・カンナダ文字・マラヤーラム文字のサンスクリット語表記に影響を与えています。
スリランカ(セイロン)で話されるシンハラ語(インド・アーリア系)を書き表すための文字です。スリランカは上座部(南伝)仏教を通じて、ビルマ、タイとの歴史的な関係の深い国です。
地上の楽園といわれるバリ島(インドネシア)の言語であるバリ語(オーストロネシア系)を書き表すための文字です。バリ語の表記は一時ローマ字にとって変わられましたが、最近復活の動きがあります。街頭の表示などでも見ることができます。
インドネシア中部・東部ジャワ地方で話されているジャワ語を表記するのに使われます。古ジャワ文字(カウィ文字)と現代ジャワ文字があります。現在は学校教育を除いてはほとんど使用されません。
アンコールワットで有名なカンボジアの公用語クメール語(オーストロアジア系)を書き表すための文字で、東南アジア大陸部のさまざまなインド系文字の原型のひとつです。子音文字を上下に重ねて書くといった、古い特徴をよく残しています。
13世紀に、タイ最初の王朝のラームカムヘーン王によって作られました。タイ語(タイ系)独自の発音を表すために、子音字と声調記号を追加し、またインドの文字体系も保存しているために、東南アジアでは子音字が最も多い文字です。
ミャンマー連邦(旧称ビルマ)の公用語であるビルマ語(チベット・ビルマ系)を書き表すための文字で、先住民族であるモン人の文字をもとに11世紀に作られました。インド系文字の中でもっとも丸く、まるで視力検査表のように見えます。
チベット語(チベット・ビルマ系)を書き表すための文字で、吐蕃王朝がチベットを治めていた7世紀、北インド系の文字を学んだ学者によって作られたと考えられています。文字の形や構造はほとんど変わっていないのに、音の方が大きく変化したため、現在では文字とその発音のずれが大きくなっています。
インド・アーリア系のサウラーシュトラ語を書くために二十世紀の初頭に作られた文字です。サウラーシュトラ人は北インドのグジャラート地方から数世紀前に南インドのタミルナード州に移住してきた人々です。
インド東部の少数民族のサンタル人がサンタル語の表記のために作り出した文字です。「オル」は「書く」の意味、「チキ」は「文字」の意味で、合わせて「書き文字」を表します。サンタル文字とも言います。
インド東部の少数民族のサンタル人がサンタル語の表記のために作り出した文字です。
オルチキ文字とも言います。
ビルマ東南部のモン州などで話されるモン語(オーストロアジア系)を書き表すための文字です。モン人は今でこそ少数民族ですが、かつては東南アジア大陸部にいくつかの王国をつくり、高い文化を誇りました。クメール文字とともに、大陸部のインド系文字の二大源流をなしています。
ビルマ東部のシャン州で話されるシャン語(タイ系)を書き表すための文字です。ビルマ文字をもとにして、おそらく15世紀以降に作られました。シャン人はこの地域を中心とした「シャン文化圏」と名付けられる複合文化圏の主要民族の一つです。
インド東北部マニプル州を中心とした地域で話されるメイテイ語(チベット・ビルマ系)を書き表すための文字です。この地にマニプル王国が成立した15世紀以降用いられるようになったと考えられます。19世紀以降ベンガル文字による正書法に取って代わられましたが、近年になって復興の動きが見られます。
ネパールのカトマンドゥ盆地を中心とする地域で、デーヴァナーガリー文字が一般的になる以前に使われていた文字を総称して、このように呼びます。ネワール文字と呼ぶのは、現在のネパール文字はデーヴァナーガリー文字だから区別したいという場合です。ネパール文字と呼ぶのには、この文字を使ってきたのはネワール民族だけではないという意味が込められています。
日本で使われている梵字の元となった文字で、北インドで6世紀から10世紀にかけて使われていました。悉曇の解説を参照してください。
日本で使われている梵語(サンスクリット)を表記するための文字です。本来の名前を「シッダ・マートリカー」と呼びます。
インド西北部のグジャラート地方で使われているグジャラート語の文字です。デーヴァナーガリー文字によく似ていますが、文字の上の横線がなく全体的に丸みを帯びています。
東南アジアの内陸部にあるラオスの公用語であるラオ語(ラオス語)を書くための文字です。ラオ文字はタイ文字と構成が似ていますが、子音文字の数を減らしたりして、つづり方を簡略化しています。
現在のタイ北部のチェンマイを都としていたランナータイ王国の文字です。現在日常的には使われていませんが、最近の地方文化復興の動きにより、市内の観光地やお寺の表示などに復活しています。
バタク語(インドネシア北スマトラ州に分布する近縁な諸言語の総称)を表記するのに使われていましたが、現在は学校教育の中で文化史の一環として教えられるだけで日常的には使用されていません。
インドネシア西部ジャワ地方で話されているスンダ語を表記するのに使われていましたが、現在はローマ字を用います。
インドネシア南スラウェシ州に分布するブギス語を表記するのに使われます。同州で話されているマカッサル語を表記するマカッサル文字と本質的に同一の文字です。
フィリピンの総人口の20%台が母語としているタガログを表記するのに使われていましたが、現在はローマ字を用います。
現在フィリピンのミンドロ島南部(マニラから南に百数十キロ)で使われています。ローマンアルファベットが普及しているフィリピンにおいて、パラワン島の文字と並ぶ、現在も用いられている数少ないインド系文字です。
エチオピア文字は、エチオピアとエリトリアというアフリカ大陸東北部の二つの国で公用文字となっています。セム語系のアムハラ語、ティグリニア語、クシ語系のオロモ語などを話す総計約5000万の人々によって使われています。
レプチャ文字(ロン文字とも言う)は、ヒマラヤ山脈の東部にあるシッキム州のほか、西ベンガル州北部ダージリン付近、ブータン西部、ネパール東部に住む人々によって話されるチベット・ビルマ系の言語、レプチャ語(ロン語とも言う)をあらわすのに用いられる文字です。
18世紀初頭につくられたレプチャ文字は、チベット文字のウメー体(無頭体)をもとに考案されたと言われていますが、未だ定説はありません。
E-Mail to: imoji@aa.tufs.ac.jp