1. 緬暦474年(1112AD)

2. brii 「終る」の初頭音の綴りは、当時から有声化の現象があったことを物語る。

3. バガン pu_gaM

4. 現代文語の -so に対応する形式はおおむね -su である(ll.3,4,6,11,14,16,17,20,27,32,38)。この対応も奇妙である。ただl.12だけは -so が現れている。

5. praN~' は「国」と訳すのが一般的だが、「都」の意味を表すこともあるのは諸辞典に記載されている通り。

6. ti「三」bhuvana「世界」adicca「太陽」。バガン朝のチャンズィッター王(在位1084-1112AD)。

7. この碑文では、現代ビルマ文字の -ui|-ui: [o]に対応する形式として -iw'|-uiw'|-eiw' の3つが混在する。また、軋声調(creaky tone)の -ui. に対応する形式も -i@'|-ui@'|-ei@' の3つが混在する。現代文語の thui 「それ」に当たる形式は thiw' (ll.5,7,8,9,10,11,21,27,28)~ thuiw' (ll.13,14,26,27,32)の揺れを示すが、前者が優勢であることから、これを -uiw'-u- を書き忘れた形式であると単純に決めつけることはできない。いずれにせよ、現代語の[o]が、当時のアーリア系言語・モン語のいずれの表記法によっても表しがたい音であったことだけは間違いない。

8. ti「三」loka「世界」vaṭaṁsika「耳環」。ビルマ名はタンブーラ。

9. rāja「王」kumāra「息子」。本名だとしたら素っ気なさ過ぎはしないか。

10. 原典 rwoh' 、現代ビルマ文字 rwaa という対応はイレギュラー。文法形式以外で -o が出る珍しい例。

11. 原典 sii=y' 。末子音字 -y' が分解され -ysii の下、 -' が次の音節 kha の上に置かれる。書き損じであろう。l.14を参照。

12. ラカイン方言にこの形式が残存する。

13. saa@(')saa の最初の saa は誤植。 -@(') はおそらく明示的な属格標識 e@' の縮約されたもので、前行の ma_yaa に付くものと見るべき。l.27,l.33を参照。

14. l.03の -su の注を参照。

15. Nishi(1999),藪(2004)に基づく。声母・韻母ともに不規則な対応であることは否めないが。

16. -ei というdigraphは、バガンの初期の碑文のみに見られ、 -ui に取って代わられる。クメール文字やスコータイ系文字にも -ei のdigraphがあり、いずれも中舌母音を表記することは注目に値する。l.05の thiw' の注も参照。

17. grii も有声化の事例。

18. l.19の plo@' の注を参照。

19. 藪(2004)に引かれたMya Kaytu(1967)では、これを nhaM+@ap' (いずれも「預ける」の意)の縮約形と考える。

20. l.33には -sei@' という形式が現れる。l.05の thiw' の注を参照。

21. l.19,20,26には (@a_)tui@' という形式が現れる。l.05の thiw' の注を参照。

22. -o@' という表記がビルマ語碑文の中に現れる甚だ稀な例である。しかもこの形式は現代ビルマ文字の -u に対応する。

23. 現代語の -lim'. 「推量」に対応するとする考え方もある。ここではNishi(1999)に従った。

24. 原典の kuu は、あるいはこの時代にこの語の初頭子音が有声音でなかったことを表すものか。

25. l.05の thiw' の注を参照。

26. 否定辞 @a- は、現代ビルマ語にはないが、同系のツァイワ(アツィ)語にはある。