研究計画の概要
 
 人類学においては個人対社会、主観対客観といったニ項対立的な問題設定を前提としていることが多い。この共同研究プロジェクトは、こうした前提を超えて、いかに人々の経験のリアリティを捉えることができるのかについての、人類学的な理論的展望をひらくことを目的とする。ここでいう社会空間とは、主体の実践のスペース、もしくは実践において他者と相互作用しつつ構築する社会関係の総体をさす。そこにおいては、実践主体はいかに重層する諸関係とかかわりながら自己を維持し構成するのかが問題となる。そこからあらためて、社会的なるものが問われることになろう。このような社会科学の中心的ともいえる課題を追求するために、研究会は人類学者を中心としながらも、心理学、社会思想等の隣接分野の研究者の参加をあおぎ、学際的な共同作業による理論の構築をめざす。
 本プロジェクトでは、こうした課題を追求するにあたり、宗教といった現象に焦点をあわせることで、個々のメンバーの事例報告の羅列に終わることを避け、より議論を建設的に深めようとする意図をもっている。高度経済成長に伴う大衆消費社会の出現、情報社会化、国際化のなかで、人々は宗教的な実践を多様化、差異化させている。このような宗教、あるいは宗教的なものの経験をとおして、再編成されていく社会関係のあり方を考察することは、社会空間の概念を歴史的文脈において検討することを可能にするものと思われる。