マテンゴ語の声調は,音節単位ではなく,モーラ単位で有する。Hのみが指定 され,指定のないものはLで現れる。名詞は「名詞クラス接頭辞 − 名詞語幹」 と構成されるが,構成要素の基底声調は以下のとおりである。
名詞クラス接頭辞
5クラス:L,それ以外のクラス:H
名詞語幹の基底声調
声調グループI:すべてL (0)
声調グループII:語幹の直前がH (-1)
声調グループIII:語幹頭がH (+1)
声調グループIV:語幹頭の右隣がH (+2)
声調グループV:語幹末がH (Last)
名詞語幹の基底声調はHが現われる位置によって区別される。上記は名詞語幹が 3音節の場合であるが,名詞語幹の声調グループはn+2 とおり(nは音節数)存 在することになる。表層化するにあたって以下のような規則が適用される。
1 Hが重なった場合,前のHは消える(規則1)
2 末尾のHは左隣にずれて現れる(規則2)
3 孤立形で語中にHが全くない場合には,語頭から2番目の音節がHになる。た だし,語幹が2音節の場合には語頭がHになる(規則3)
ひとつの丸が1モーラで,○はL,●はH,◎はその直前がH,を表わす。間 隔を広く空けたところが音節の境界である。語中に付けた ' は,その前がHで あることを表わす。
I 名詞語幹はすべてL
A 名詞クラス接頭辞がHの場合
基底形 表層形
● − ○ ○ ○ ● − ○ ○○ ○ ma'-tElE:ku
B 名詞クラス接頭辞がLの場合(規則3)
○ − ○ ○ ○ ○ − ● ○○ ○ li-tE'lE:ku
II 語幹の直前がH
A 名詞クラス接頭辞がHの場合
● − ◎ ○ ○ ● − ○ ○○ ○ ma'-tala:bu
B 名詞クラス接頭辞がLの場合
○ − ◎ ○ ○ ● − ○ ○○ ○ li'-tala:bu
III 語幹頭がH
A 名詞クラス接頭辞がHの場合(規則1)
● − ● ○ ○ ○ − ● ○○ ○ ma-sE'ta:ni
B 名詞クラス接頭辞がLの場合
○ − ● ○ ○ ○ − ● ○○ ○ li-sE'tani
IV 語幹頭の右隣がH
A 名詞クラス接頭辞がHの場合
● − ○ ● ○ ● − ○ ●○ ○ ma-tutu':ma
B 名詞クラス接頭辞がLの場合
○ − ○ ● ○ ○ − ○ ●○ ○ li-tutu':ma
V 語幹末がH
A 名詞クラス接頭辞がHの場合(規則2)
● − ○○ ○ ● ● − ○○ ○● ○ ma-nge:nge:'sa
B 名詞クラス接頭辞がLの場合(規則2)
○ − ○○ ○ ● ○ − ○○ ○● ○ li-nge:nge:'sa