マテンゴ語の名詞の声調

米田信子


 マテンゴ語は,バンツー諸語のひとつで,タンザニア西南端に位置するンビン ガ県で話されている。

 マテンゴ語の声調は,音節単位ではなく,モーラ単位で有する。Hのみが指定 され,指定のないものはLで現れる。名詞は「名詞クラス接頭辞 − 名詞語幹」 と構成されるが,構成要素の基底声調は以下のとおりである。

名詞クラス接頭辞

    5クラス:L,それ以外のクラス:H

名詞語幹の基底声調

    声調グループI:すべてL       (0)

    声調グループII:語幹の直前がH   (-1)

    声調グループIII:語幹頭がH     (+1)

    声調グループIV:語幹頭の右隣がH  (+2)

    声調グループV:語幹末がH     (Last)

名詞語幹の基底声調はHが現われる位置によって区別される。上記は名詞語幹が 3音節の場合であるが,名詞語幹の声調グループはn+2 とおり(nは音節数)存 在することになる。表層化するにあたって以下のような規則が適用される。

1 Hが重なった場合,前のHは消える(規則1)

2 末尾のHは左隣にずれて現れる(規則2)

3 孤立形で語中にHが全くない場合には,語頭から2番目の音節がHになる。た だし,語幹が2音節の場合には語頭がHになる(規則3)

 ひとつの丸が1モーラで,○はL,●はH,◎はその直前がH,を表わす。間 隔を広く空けたところが音節の境界である。語中に付けた ' は,その前がHで あることを表わす。

I 名詞語幹はすべてL

  A 名詞クラス接頭辞がHの場合

    基底形             表層形

    ● − ○ ○ ○    ● − ○ ○○ ○  ma'-tElE:ku

  B 名詞クラス接頭辞がLの場合(規則3)

    ○ − ○ ○ ○    ○ − ● ○○ ○  li-tE'lE:ku

II 語幹の直前がH

  A 名詞クラス接頭辞がHの場合

    ● − ◎ ○ ○    ● − ○ ○○ ○  ma'-tala:bu

  B 名詞クラス接頭辞がLの場合

    ○ − ◎ ○ ○    ● − ○ ○○ ○  li'-tala:bu

III 語幹頭がH

  A 名詞クラス接頭辞がHの場合(規則1)

    ● − ● ○ ○   ○ − ● ○○ ○  ma-sE'ta:ni

  B 名詞クラス接頭辞がLの場合

    ○ − ● ○ ○   ○ − ● ○○ ○  li-sE'tani

IV 語幹頭の右隣がH

  A 名詞クラス接頭辞がHの場合

    ● − ○ ● ○   ● − ○ ●○ ○   ma-tutu':ma

  B 名詞クラス接頭辞がLの場合

    ○ − ○ ● ○   ○ − ○ ●○ ○   li-tutu':ma

V 語幹末がH

  A 名詞クラス接頭辞がHの場合(規則2)

    ● − ○○ ○ ●   ● − ○○ ○● ○  ma-nge:nge:'sa

  B 名詞クラス接頭辞がLの場合(規則2)

    ○ − ○○ ○ ●   ○ − ○○ ○● ○  li-nge:nge:'sa