ラオ語の声調に関する一考察

鈴木玲子


本発表では、まず、「現代ラオス語ヴィエンチャン方言の音韻体系」(上田,1994)に修正を加え、その後、タイ語の影響を受けてめまぐるしく変化するラオ語について見解を述べた。

1. 修正加筆

上田(1994)では、声調/∨/は、後続音節が続く場合に、全昇調/∨/[25]と低平調/_/[22]の差異が単語によって保持される傾向のある場合とない場合があるとし、それを声調体系の「ゆれ」とした。ところが、現在ではポーズをとることなく後続音節が続く場合は、いかなる頭子音であっても、またその音節が独立した意味を持とうが持つまいが常に低平調[22]である。

声調///も、後続音節がない場合は高昇調[34]であるが、ポーズをとることなく後続音節が続く場合は、現在では声調は上がりきらず、中平調[33]の声調である。

後続音節の有無による声調の変化は、他の声調素/\/、/∧/、/ /には見られず、/∨/と///のみに見られる。従ってラオ語では「上がる」ということが弁別的な声調に限り、後続音節がある場合は上がりきらないということが起こるとし、このような現象をここでは「Tone sandhi」と呼ぶ。

次に、上田(1994)ではCVという積極的な声調の対立を持たず、全て中平調であるという軽声音節を認め、このような音節に現れる母音は/a/の場合であるとしているが、/i/や/u/にも認められたので、軽声音節に現れる母音は/a/、/i/、/u/と修正する。

第三点として、正書法上の子音字連続形式について次のように加筆する。実際の音価は子音連続ではなく、/w/に相当する第二子音字と/aa/に相当する後続母音字が音韻的に(/waa/ではなく)/ua/と実現するか、もしくは/w/に相当する第二子音字が音韻的には全く脱落するかのどちらかである。母音が/i/、/e(open)/のときと促韻/aat/ときは前者で、それ以外のときは後者になる。

2. ラオ語の声調

近年、隣国タイ語の流入が激しい。同じ音節構造でタイ語が中平調でラオ語が全昇調もしくは高昇調という上がることが弁別的な声調は平板化し、下がることが弁別的な声調はタイ語のように高さの差異が顕著化している。声調の変化に伴って正書法も変化し始めている。よりタイ語的な声調体系になっていくかどうか今後の推移を見守る必要がある。