語形成とストレス―北京語・モンゴル語・満洲語―

久保智之



本発表では、複合語と単純語の中間にあると思われるようなふるまいをする形式を、ストレス(らしきもの)との関わりに注目して、3つの言語について観察した。

  1. まず北京語では、2音節の形式において、どちらの音節にも声調が実現しているもの(a)と、第1音節にしか声調が実現せず、第2音節は、いわゆる軽声となるもの(b)が存在する(ローマ字は漢語ピンイン、数字は声調、数字のない音節は軽声)。

    さらに、第2音節に、かなり弱いが声調が実現し、「3声+3声」の連続の場合、第1音節が2声に変調しているのが観察されるもの(c)がある。

    これらは、「単語の初頭音節にストレスを付与せよ」という規則を仮定し、(a)は[○○」のように、2音節で1語、(b)は[[○][○]]のように、複合語であると構造を仮定すれば、説明できる。(c)は両者の中間で、(b)のように両者がストレスをもった形で表面に出てくるのではなく、融合語化のプロセスを経て、第2音節が弱化する。(a)のような単純語のようで、そうでない。(このあたりの議論は、結城佐織氏(京都大学)によるところが大きい。この点、発表のとき言い忘れました)

  2. モンゴル語には、japon <日本> --> japon mapon<日本とか>のように、reduplicate して、あとの要素をmではじめるというプロセスがある。名詞ばかりでなく、形容詞や動詞にもごく普通に見られるプロセスである。

    さて、モンゴル語ではストレスは初頭音節に来るが、句や複合語では、[[X][Y]]という構造の場合、XのストレスのほうがYより強くなる。それを[SW]と表記することにすると、この強弱とさきの reduplicationの関係は、次のようになる(YYなどは、Yが reduplicate されていることを示す)。

    reduplication の input  reduplication の output
    a.[XY]=SW[[X][YY]]or [[XY]Y]=SWW
    b.[XY]=WS[[XY]Y]=WSW
    c.[XY]=WS[[XY]XY]=WSWS

    このうちcは、単純語に近いものとなっていると思われる。cの例のみあげる。

  3. 満洲語(シベ語)では、penultimate mora にピッチの高まりと強まりが来るのが普通である。[XY]のような複合語では、Xの高まり・強まりのほうが高い・強い。しかし、ある種の複合語では、Xの高まり・強まりをひとつ前の母音にずらすという現象が見られる(’は直前の母音が高い・強いことを示す)。

    ここでは、ストレスないしアクセントの対立を認めるという久保の仮定が妥当か否かをめぐって、活発な議論が展開された。久保は、語末にi、e、uがある場合に、ストレスないしアクセントがそれに付与されているか否かの対立があると仮定しているが、むしろ、子音終わりと母音終わりの対立としたほうがいいのではないか、という提案もなされた。