マテンゴ語動詞の声調 (バンツー諸語,タンザニア)

米田 信子



<マテンゴ語動詞の構造>

(以下表記:! = H, $ = F, # = R, E = 広い e)      拡張辞
                                /\
主語接辞−テンス・アスペクト辞−目的語接辞−語根−拡大辞−派生辞−語尾
tu     - a!            - gu       - but  -uk    - il    - a
<1pl>   <未来>          <2sg>     「〜に向かって走る」   <基本形>
「我々は君を追いかける(未来)」

 マテンゴ語はバンツー諸語のひとつで,タンザニア西南部に位置するンビンガ県で話
されている。 バンツー諸語の多くは,動詞語根の声調にHとLの対立があり,それによっ
てそれぞれの活用形にも声調パターンの対立が起こるが,マテンゴ語の動詞語根はこの
対立を失っている。マテンゴ語の活用形の声調パターンは動詞語根の構造,すなわち
モーラ数によって違いが現れる。ひとつは動詞語根がCV(C)からなる動詞で,動詞語根
が1モーラのもの(A),もうひとつは動詞語根がCSV(C),C(S)VNC,CV(C)からなる動詞
語根が2モーラの動詞である(B)。

<完了過去形の場合>

A: ku!-gol-ol-a 「洗う」

A: tu-lu!-golwi:$lE  L H L F L ○ ● ○ ●○ ○ 「我々はそれ(器)を洗った」

B: ku!-bomb-ol-a 「粘土で作る」

B: tu-lu!-bo:#mbwi:lE  L H R L L ○ ● ○● ○○ ○ 「我々はそれ(器)を作った」

( : は2モーラ。末次音節は常に2モーラになる。丸は1モーラ。○=L,●=H)

 しかしながら,実際にはAとBに声調パターンの違いがあるわけではなく,
モーラ数の違いから,その(各音節への)配分が異なっているにすぎない。
つまり2モーラ語根の動詞の場合は,本来右隣の拡張辞に現れるはずの声調
が語根の2モーラめに現れているということである。

 声調パターンの現われ方について次のように考えられる。

  1. 声調は音節ではなく,モーラがもつ。
  2. 基底声調はTA辞,語根,語尾がもち,残りの構成要素は声調の指定なし。
  3. 声調は各モーラに配分され,そこに規則が適用されて表層化する。