テンボ語(旧ザイール、バンツー系):多音節語の声調言語

梶 茂樹



 アフリカ、旧ザイール東部に話されるテンボ語の声調言語としての類型論的特徴を考察した。

 テンボ語の名詞は、形態論的に「接頭辞+語幹」という構造をしており、典型的には、接頭辞の音節的構造はCV-、そして語幹は-CVあるいは-CV(N)CVである。従って、名詞は全体としてはCV-CV、あるいはCV-CV(N)CVが最も普通であり、数も多い。また、全体の声調のパターンの区別もはっきりとしている。

 テンボ語の基本的声調は、H(高平板調)とL(低平板調)であるが、この分布を以上の構造に合わせて見ると、

1.CV-CV   2.CV-CV(N)CV
H-HH-HH
H-LH-HL
L-HH-LH
L-LH-LL
L-HH
L-HL
L-LH
L-LL

の様に、2モーラ(音節)語では2×2=4、3モーラ(音節)語では2×2×2=8のパターンが見られる。さらに4モーラ(音節)語でも、2×2×2×2=16のパターンがある。従って、パターン数は、声調数2を公比とする等比級数として表すことができ(F(n)=2n)、テンボ語は、各モーラ(音節)に声調を指定しなければならない声調言語ということになる。

 ただ、名詞接頭辞の声調は、バンツー祖語ではすべて低かったと言われており、テンボ語のように声調の逆転現象が起こった言語では、高いのが普通である。実際、低いものより高いものが多い。低いものは、もともと借用語であったり、また本来は語幹初頭に母音があったのだが、それが消滅することによって複雑な声調変化を起こしたものが多く、その来源は個別に求める必要がある。しかし共時的には、数上の多少のアンバランスがあるにせよ、接頭辞の声調は個々のものについて指定しておく必要があり、いわゆる「真の声調言語」タイプに近いと言える。

 討論では、個々のモーラ(音節)に声調を指定するのではなくて、声調と(抽象的な)アクセントで分析する可能性が示された。また、基本的な声調の数が少ないと単語が長くなり、逆に、数が多いと単音節的になる傾向があるのかどうかということが問題として提起された。