清水克正
閉鎖子音の発声タイプは、ピッチに影響を及ぼすことがかなり以前から知られており、一般的に有声音では後続する母音部のFoの開始周波数は低く、他方、無声音では高くなることが知られている。こうした現象について、声門を通過する気流、声帯の緊張および喉頭の上下の移動の観点から幾つかの仮説が出されているが、研究者の間で一致している考えはない。7言語における発声タイプの影響について音響的に調べてみると、一般的に無声性の分節素の後にくる母音のFo値は有声性のものより高くなる傾向が見受けられるが、タイ語の有声子音と無声無気音では大きな差は見られなかった。
さらに、Foパターンについては、Hombert et al.(1979)は無声音では下降パターン、有声音では上昇パターンが多く見られることを指摘しているが、個別言語的な特徴が見出された。日本語の無声子音では平板か上昇パターンが見られ、また韓国語の濃音では、Foパターンの急激な下降パターンが見られ、内部喉頭筋肉の急激な緊張と緩みが考えられる。ヒンディー語の有声有気音では特徴的な下降−上昇のパターンが見られ、同発声タイプを特徴づけるものということができる。Foパターンは子音の発声タイプを弁別する主要な要因であり、他の主要な要因であるVOT(声帯振動の開始時間)と相補的な関係にあると考えることができる。ビルマ語の鼻音の有声性・無声性の対立に関し、母音部の開始周波数を調べてみると、閉鎖子音と同様に無声鼻音の方が有声鼻音よりも高いFo値を示した。有声鼻音が低いFo値を示すことに関して、鼻音では気流は遮断されることなく鼻腔を流れているところから、喉頭の下降による説明の妥当性が問題となる。鼻音の調音における喉頭の動きを調べたデータは少ないが、鼻音の有声性で見られるFoの低下は、声門上下の口腔の影響を再検討する必要性を示している。
アジアにおける7言語の子音の発声タイプの弁別要因とピッチへの影響を調べてきたが、内部喉頭筋肉の緊張性、喉頭の位置、気流の状態および声門上部の容積などがFoに関係しており、こうした諸要因の相関性についてさらに検討することが求められる。