朝鮮語諸方言のアクセント体系について 福井 玲  朝鮮語の諸方言のうちで,慶尚道,咸鏡道などの方言が,ピッチアクセントをもっている ことが知られている。今まで多くの研究があったが,依然として次のような点が問題点とし て残されている。 (1) 地理的分布について (2) 個々の方言の正確な記述について (3) アクセント体系の音韻論的解釈  まず,(1)については,慶尚道,咸鏡道以外にも,江原道,全羅道にもピッチアクセント をもつ方言が存在するという報告があったが,特に全羅道に関してはその実態は明らかにな っていない。そして,アクセントをもつ方言ともたない方言の境界がどこにあるのかも明ら かではなかった。また,慶尚道については,地域ごとに少しずつ異なったアクセント体系が 存在することが知られているが,その正確な分布は明らかになっていない。  この発表では,まず,アクセントの存在する地域と存在しない地域の境界線がどこにある かを明らかにするために,慶尚南道に隣接する全羅南道光陽市内におけるアクセントの地理 的分布および,同市内においてアクセントが存在する地域においてはそのアクセント体系を 示した。  地理的分布に関しては,光陽市をほぼ東西に別けるように境界線が走っていることが明ら かになった。それより東側には,語の音節数にかかわらず,基本的に4つのパターンをもつ 4系アクセントが分布する。これは慶尚南道西部の諸方言に見られるものとよく似たアクセ ント体系である。また,それより西の地域では,少なくとも東側に見られるような明確なア クセントは存在しない模様である。ただしこの点についてはさらに確認が必要である。  上で述べた光陽市のアクセント体系はかなり典型的なN型アクセント(ないし語声調)で ある。慶尚道の東部,例えば大邱,金海,昌原,釜山などは多型アクセント,すなわち音節 数が多くなるに従って型の種類が増えるアクセント体系をもつ。これらの体系については, いままで比較的多くの研究があるにもかかわらず,いまだによく分からない点があるが,今 回の発表では,時間の都合上,詳細な議論はできなかった。