アンコーレ語(ウガンダ西部、バンツー系)の名詞の声調パターン

梶茂樹


 アンコーレ語(Ankole)はウガンダ西部に話されるバンツー系の言語であるが、報告者 が以前に調査したタンザニア北西部のハヤ語ときわめてよく似ており、声調体系も基本 的に同じであるということができる。ただ、いくつかの細かな違いがある。例えば、基 底において単語の最後の2音節が-HLのものは、あとに休止が来るという条件の単独形で は、ハヤ語では-FLと実現されるが、アンコーレ語では-HLのままであること(ただし、 終わりから2音節目が長い場合は-FLとなる)。そして基底形で最後の2音節が-LHのもの は、単独形ではハヤ語でもアンコーレ語でも-HLとなるので、ハヤ語では基底が-HLのも のと-LHのものは単独形でも区別されるが、アンコーレ語では区別されないということ がある。これなどは些細な違いであるが、大きな違いも目に付く。

 例えば、アンコーレ語では、「木」は単独形では、omuti 3, emiti 4というふうに、 3音節ともすべて低く発音される。この名詞は、このあたりの多くの言語では、ハヤ語 のようにomu{ti 3, emi{ti 4 のようにLHLとなるか、コンゴのビラ語(Vira)のように muti{ 3, miti{ 4 のようにLHとなるの普通である(ビラ語では、一種の冠詞である augmentは用いない)。アンコーレ語のように、すべてLというのは普通ではない。

 報告者の最終的目標は、この地域の諸言語の声調の通時的再構成であるが、当面の興 味は、このような全てLの単語がどの様に生じたか、そのプロセスを解明することであ る。ただ、調査の現段階では解決案を提示するには至らないが、アンコーレ語の声調体 系をハヤ語などと比較し、どのような差があるかを明らかにし、解決の方向性を探っ た。

V{ 母音にacute accentを付ける(high toneのしるし)