大阪方言におけるピッチアクセントとトーンの生成と知覚

杉籐美代子


 大阪方言は京都方言と同様、平安時代のアクセントを伝承しており、東京アクセン トとは異なる特徴をもつ。ここでは次の順でピッチアクセントとトーンの実態を明ら かにする。

1.2拍語アクセントの種類と配列 平安時代のアクセントは5類に分類され、1.高高、  2.高低、3.低低、4.低高、5.低高低の順に配列される。音響的特徴からは第2類の高  低と第5類の低高低のそれぞれ第2拍に下降音調が観察され、両型は隣接関係にある。  このため4つの型を下記のように配列する(A型D型は高起、B型C型は低起アクセ  ントである)。――A型,HL、B型,LD(D:Descending tone)C型,LH、D型,HH――

2.喉頭筋電図の採取の結果 高起、低起の、生理学的メカニズムは次のようである。  高起アクセントA型、D型では、発話に先立ち、声上げに関連するCT(輪状甲状筋)  が働き、低起アクセントのB型、C型ではSH(胸骨舌骨筋)が活動する。A型では  CTが減衰しはじめるとSHが活動し、B型では、SHの次にCTが活動しこれが減  衰しはじめるとSHが活動する。A,B型は同じく下降音調をもつ。次に、A型 [ku。sa]  (草)と無声拍にアクセントのあるA型 [ku。sa](草)の喉頭筋電図では、CTが第  1拍で活動、第2拍のはじめに再度活動し、同時にSHの活動が観察され、第2拍は  下降調である。

3.合成音声による知覚実験とその結果 10種の合成音声:第1拍は平坦、170Hzから  10Hzずつ低くし、第2拍は同一の下降音調(160〜80Hz)をもつ。これらを次々に聞くと、  A型からB型への変化として知覚される。この第1拍から母音を除き/ks/だけでも第  2拍が下降音調ならば、この[kusa]は第1拍にアクセントありと知覚され、第2拍母  音を平坦にすると第2拍にアクセントを聞く。これらの結果はアクセント及びトーン  の知覚が第2拍の音調によってまた先行母音との高さ関係においてなされることを示  している。