金沢市方言のアクセントと語音の関係

新田哲夫


  アクセントと語音が密接な関係をもつ石川県金沢市のアクセントを中心に取り上 げ、島根県松江市、山形県鶴岡市、香川県高見島、香川県高松市のアクセントを概観 し、それぞれの方言におけるアクセント語音の関係を比較した。

 金沢市方言のアクセントと語音の関係は次のような特徴がある。まず、「句音調」 である上昇位置に関して、(1)母音の広狭が関係する。(2)母音の広狭だけでなく、 母音が狭いときその子音が有声子音であるかどうかが関係する。(3)3拍以上の語 のとき、2拍目の後に形態素境界があるかどうかが関係する。松江市方言は(1)、 高見島方言は式特徴の制約をうけながらも(1)(3)が関係する。金沢市方言は (2)(3)が関係するところが他の諸方言と異なる。金沢市方言では、上昇位置の ちがいは音韻的な対立ではなく、上記の条件のもとに相補分布が成り立つことを事例 を示して述べた。

 次に、弁別特徴である下降の制限について、金沢方言では広母音に先行する狭い母 音にアクセント核が置きにくい傾向があることを指摘した。松江市方言ではアクセン トの下降の付属語への「はみ出し」に関しては、母音の広狭の条件で相補分布が成り 立つ。しかし、鶴岡市方言、高松市方言では、母音の広狭と下降の位置に関して相補 的な傾向を示しながらも、厳密には相補分布による解釈はできないことを示した。

3.合成音声による知覚実験とその結果 10種の合成音声:第1拍は平坦、170Hzから  10Hzずつ低くし、第2拍は同一の下降音調(160〜80Hz)をもつ。これらを次々に聞くと、  A型からB型への変化として知覚される。この第1拍から母音を除き/ks/だけでも第  2拍が下降音調ならば、この[kusa]は第1拍にアクセントありと知覚され、第2拍母  音を平坦にすると第2拍にアクセントを聞く。これらの結果はアクセント及びトーン  の知覚が第2拍の音調によってまた先行母音との高さ関係においてなされることを示  している。